★ The One Day Carnival 〜メイドカフェ『楽園』へようこそ! ★
<オープニング>

 その日、カフェ『楽園』が店を休みにしたのは、何も、銀幕市に開店してから数ヶ月、一日も休まずに営業し続けてきた疲れが出たからではなかった。むしろ、誰もが元気いっぱい、というか最高級のテンションで作業に精を出していた。
 そう、女王と森の娘たちの居住空間である、別名開かずの間とも呼ばれる店舗最奥では、現在、せっせと準備が進んでいた。
 その準備のために、断腸の思いで店舗を休業にしたのだ。
 皆、それならばせめて最高のものを、という志に衝き動かされて忙しく立ち働き、また、せわしなく……しかし恐ろしく正確に手指を動かしている。
 一体、何の準備なのか。
 それは、
「皆、招待状を出してきたわ。きっと来て下さるでしょう。先だっての海水浴場で新たな人材を発掘したお陰で、招待状の書き甲斐があったわ」
「あら……素敵。生けに……ではなくて今世紀最大の美女たちが集ってくださると言うことね。楽しみだわ」
「ええ……本当に楽しみね。今からわくわくしてしまうわ。リーリウム、衣装の準備は?」
「はい、万端です」
「イーリス、あれの準備も問題ないのね?」
「はい、改良に改良を重ねて、更に本物っぽさを追求しました」
「マグノーリア、ニュンパエア。生け贄の捕か……ではなくて、お化粧の準備はどう?」
「はい、先だって教えていただいたインターネットで、『萌え』を追及したメイクを勉強してあります。ねえ、ニア?」
「ええ、マグナ。ふんわり清楚に、キュートに。が、今回のコンセプトです」
「ではラウルス、衣装に合わせた履物の準備も完了ね?」
「はい、もちろんです。華奢で美しい靴をお目にかけましょう」
「サリクス、スイーツの準備は、どう?」
「このイベントに合わせた、目にも可愛らしいタルトやケーキをご用意します。彼ら……ではなくて彼女らには、イベントが終わったあと、皆で食べていただこうかと」
「そう……あとは、クエルクス。インテリアはどうなりそうかしら?」
「もちろん、ホワイト&ベビーピンクを基調とした、フリルとレースとお花に彩られたキュートな空間をお約束します」
 女王と愉快な仲間たちの、この会話を耳にすればもはや言わずもがなだろう。耳にした瞬間青褪めてダッシュで逃走に入る人間も多そうだが。
「それでね、お姐さま」
「ええ、どうしたの、リーリウム」
「わたしたち、少しお店を離れた方がいいんじゃないかしら」
「どういうこと?」
「ええ、招待された方々は皆さん素敵な人ばかりだけれど、恥ずかしがって逃げようとする方もきっとおられるでしょう。だからね、準備だけしたあと、用事があるとか、体調が悪いとか、そういう理由をつけて隠れたらどうかと思って」
「……まあ」
「そうしたら、皆さん善人だから、お店が回らなくて困っている、と言えばきっと快くお手伝いしてくださると思うの」
「そうね……素晴らしい案だわ、リーリウム。それで行きましょう。そのようにお願いね?」
「はい、お姐さま。あ、でも皆さんが観念なさった辺りで戻ってきてもいいですよね。だって、わたしたちも可愛い皆さんと一緒にお茶がしたいもの」
「もちろんよ、逃げ道は塞いでおくわ」
 今回も全会一致で被害者確定の人々が更に青褪めるようなことをさらっと言って、レーギーナは大輪の薔薇のように鮮やかな笑みを咲かせた。
「うふふ、楽しみね」
 彼女の、心の底からの言葉と、幸せそうでいて心持ち黒い表情に、娘たちが大きく頷く。
「ええ……本当に」
「皆さん、衣装を気に入ってくださるかしら?」
「大丈夫よ、きっと感動のあまり涙にむせんでくださるわ、皆さん」
「記念写真を撮らなくてはね!」
「そうそう、それで写真をブログにアップしましょう」
「真禮様も呼んで差し上げないとね、彼女らのファンだそうだから」
「あら、そうね、楽しみは分かち合わないとね」
 女王と森の娘たちは、くすくすと楽しげに笑いさんざめきながら、また準備を再開する。
 神秘的な美貌が、期待感で輝くようだ。

 それが行われるのは、一週間後の週末。
 たった一日の楽しいお祭だ。

 生け贄にロックオンされてしまった人々は、カフェ『楽園』からの招待状を受け取ることになるだろう。
 一週間後に行われる、ごくごく普通のお茶会と言う名目で収集される美々しき漢女たちが、その危機に気づくことが出来るかどうか。

種別名シナリオ 管理番号233
クリエイター犬井ハク(wrht8172)
クリエイターコメント皆さん今日は、新しいシナリオのお誘いに参りました。

こちらは時系列的に『Tea Time in the Queen’s Garden』の続編となっております。そちらを読んでくだされば、何故こんなお祭りが開催されることになったのか把握しやすくなりますし、継続してご参加いただければ更に面白いことになるかとも思いますが、もちろん、この回だけでも参加していただけます。

すでにタイトルだけでも充分な気がするので、多くは語りません。
とりあえず、女王と愉快な仲間たちにとっ捕まって、弄繰り回されて、メイドさんの恰好で接客をしてください。訪れ方、メイド衣装、ツッコミ、接客し方などはお好きなように設定をお願いします。

なお、今回お客様としての募集はしておりませんので、参加者=女王に騙されて『楽園』を訪れたが最後メイドさんにジョブチェンジ、です。問答無用で装っていただきます。

そしていつものことですが、動じないPCさんより、動じまくるPCさんの方が目立ちます(動じないPCさんでのご参加の場合、あまり活躍(?)出来ない可能性もありますのでご注意ください)。むしろプリンセスです。思う存分突っ込みつつ、『男としての大切な何か』という坂を転がり落ちていただきたく思います。
ただい今回は十名という需要があるのかないのか微妙な数ですので、中には天然で楽しんでしまわれる方がおられても問題ないかもしれません(でも、勿論オイシイのは以下略)。

それでは、皆さまの美★空間へのお越しを切にお待ちしております。

参加者
吾妻 宗主(cvsn1152) ムービーファン 男 28歳 美大生
神宮寺 剛政(cvbc1342) ムービースター 男 23歳 悪魔の従僕
梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
太助(czyt9111) ムービースター 男 10歳 タヌキ少年
来栖 香介(cvrz6094) ムービーファン 男 21歳 音楽家
バロア・リィム(cbep6513) ムービースター 男 16歳 闇魔導師
クラスメイトP(ctdm8392) ムービースター 男 19歳 逃げ惑う人々
八之 銀二(cwuh7563) ムービースター 男 37歳 元・ヤクザ(極道)
一乗院 柳(ccbn5305) ムービースター 男 17歳 学生
片山 瑠意(cfzb9537) ムービーファン 男 26歳 歌手/俳優
<ノベル>

 ★0.お茶会のお知らせ

 皆様の、日頃からの『楽園』へのご愛顧に感謝いたします。

 今回、『楽園』では、感謝の気持ちを込め、特別なお茶会を開くことにいたしました。
 新作の、特別なスイーツと、賑やかなお喋りを楽しんでいただければ、と思います。

 つきましては、どうぞ皆様、下記日時に、カフェ『楽園』までおいでくださいませ。
 素敵な趣向を凝らしておもてなしすべく、皆様をお待ちしておりますので、奮っておいでくださいね。

 それでは、従業員一同、皆様のお越しを切にお待ちしております。



 ★1.午前八時:犠牲者様、ご案内!

 吾妻宗主(あがつま・そうしゅ)は、同居人である天使に来た招待状を持ってカフェ『楽園』を訪れていた。
 彼の今日の目的は、『楽園』で腕を揮うパティシエ、森の娘のひとりであるサリクスに、お勧めのレシピを教えてもらうことだった。と、いうよりも、覚えて来いと同居人に命じられて来たのだ。
 同居人というよりも居候であるはずの天使にここまで居丈高に命じられねばならない筋合いはないのだが、基本的に人の好い、面倒見のよい性格である宗主は、特に怒るでもなくそれを引き受け、むしろ女王や森の娘たちとの触れ合いを楽しみにしていた。
 ちなみにその天使は何故来なかったかと言うと、どうやら、夏のイベントで出会った少女とのデートで忙しいから、らしい。
 様々な修羅場を潜り抜けてきたがゆえに広く深い懐を持つ宗主は、同居人の、恐ろしく私情に偏った『事情』を聞いても怒りはせず、むしろ仕方ないな、程度の気持ちで『楽園』への訪問を決めたのだった。
「それに。レーギーナさんとお茶をするのも、楽しそうだし?」
 他にどんなメンバーが来るのかも、楽しみだ。
 総じて言えば、宗主は、このお茶会とやらをとても楽しみにしていた。

 神宮寺剛政(じんぐうじ・たかまさ)が招待状を受け取ったのはお茶会開催の三日前のことだった。
 流麗な手蹟で開催日時と内容とが記された、美しい、仄かに薫香の漂うカードは、それだけ見ればひどく魅力的な誘いのように見えるが、
「どうせまた美★チェンジさせる気だろ」
 すでに三回ほど森の女王と愉快な娘たちの悪魔の所業の餌食になっている剛政は、そこに含まれた危険をきちんと察知していたし、当然、行くつもりがないどころか、当日のカフェ『楽園』に近づく気すらなかった。
 迂闊に近づいて、これ以上、男としての大切な何かを試されたくはなかったのだ。
 あそこは、男という生き物には敷居が高すぎ(いや、ある意味低いとも言えるのだが)、また、あまりにも危険が充満しすぎている。
「……まぁ、近づかなきゃ大丈夫だろ、さすがに」
 そう決めたら気が楽になったので、それ以上は特に深く考えることなく、剛政は招待状のこともすっかり忘れてしまっていた。無意識のうちに、考えないようにしていたのかもしれない。
 だから剛政は知らなかった。
 森の女王レーギーナと妙に波長の合う主人が、招待状に気づいていて――無論彼らの関係においてそれは当然でもあったのだが――、何やら意味深な、底意地の悪い笑みを浮かべていたことに。
 前門の虎、後門の狼。
 剛政の現状を表現すれば、間違いなくそれだ。
 本人はまだ気づいていなかったが。

 梛織(ナオ)は、その招待状が届いたとき思わず悲鳴を上げた。
 手の中で自己主張する、美しい、いい匂いのするカード。
 内容としては、オーソドックスな、日頃の感謝を込めたお茶会へのお誘いの文言が流麗な手蹟で踊っているだけだ。
「し、死刑宣告か、これは……!?」
 しかしその実、カードの内側から、女王と非道な仲間たちの美しく黒い笑みが漂ってくるような錯覚すら覚えるのは気の所為ではないだろう、断じて。この若さで腕利きの何でも屋として名を馳せている梛織の、男としての悲痛な勘が全身全霊で危険を告げている。
「い、行かないぞ俺はッ!?」
 夏に砂浜で行われた手合わせ練習会に参加して、日頃虐げられている相手に一勝し、喜び勇んでガッツポーズを取ったあとのあの目くるめく地獄を、梛織は今でも克明に思い出せるし、思い出した瞬間地面にめり込まんばかりの壮絶な勢いで凹む。
「うん、こんな招待状、知らないってことで」
 招待状をなかったことにしようとカードに手をかけたところで、携帯電話が鳴った。
 仕事の依頼かな、と表示を見てみれば、
「ん、あれ……? はい、もしもし、どうし……って、えぇ!?」
 首を傾げて電話に出た梛織の声が引っ繰り返る。
「や、ちょ待て待て、思い留ま、」
 間違った方向に興奮気味な声が、ものすごい勢いでまくし立てる言葉を聞いて、梛織は思わず天を仰ぎ、そして熱い涙をこらえた。
「わ、判ったよ……俺も行くから、な? ああうん、俺にも来てたんだ。いやマジで。うん、うん……判った、じゃあな」
 放っておけるはずがない、となれば、我が身を危険に晒すしかないのだ。
「……」
 通話を終え、無言で携帯電話を仕舞ったあとの梛織は、まさに、聖戦に赴く殉教者のような表情をしていた。

 太助(たすけ)は、その招待状が届いたとき、単純に大喜びした。
「お菓子だ、お菓子っ!」
 この仔狸は食べることが大好きだ。
 サイズに似合わぬ旺盛な食欲で、保護者の老夫婦や、一緒に食事をする友人たちをよく驚かせ、また微笑ませもする彼は、もちろん、甘いものも大好きだった。
 特に今は実りの秋、瑞々しく香り高い果物で作られたスイーツはさぞかし美味だろうと、太助は胸を躍らせていた。
「へへへ、他にだれが来るのかなー?」
 おまけに、お茶会には、いつも親しくしているような、気心の知れた人々も招待されているようだ。
 美味しいお菓子を食べながら、皆で他愛のない話題に花を咲かせるのも楽しかろう、と、食べることと同じくらい『人間』が大好きな太助は、ごくごく純粋な気持ちで当日を心待ちにしていた。
 ――まさか、女王陛下の許容範囲に、タヌキ少年までが含まれているとは夢にも思わなかったから。

 来栖香介(くるす・きょうすけ)は、もちろん、最初から警戒しながらカフェ『楽園』を訪れていた。
 本当は招待状など無視したかったのだが、家にいてもスタジオにいてもマネージャーの猛攻にさらされるのが鬱陶しく、酷い目に遭ったものの前回のお茶会が結構楽しかったことも事実で、まぁ暇つぶしに出かけるかな、くらいの意識で『楽園』へ向かったのだ。
 すでに香介は、森の女王と悪魔な仲間たちの被害に何度も遭っているので、警戒心もひとしおだったが、
「……あれ?」
 午前八時に店先で、という文言の通りに出かけてきてみれば、そこに、銀髪緑眼の、見知った顔を見つけて小首を傾げた。
「やあ、香介」
 向こうの方でも香介に気づいて、繊細な美貌を穏やかな笑みのかたちにしてみせた。
「ん、ああ。あんたも?」
「うん、新作スイーツのレシピ教えてもらって来いって言われて。それに、楽しそうだったし?」
「そうか」
「そういう香介は?」
「ん、暇つぶし、かな」
「そっか」
 ぶっきらぼうな、愛想などとは無縁な香介を『弟』と呼んで可愛がってくれる青年が一緒であることに、なんとなくホッとしたのも事実で、香介は、ひとまず、コトが始まるのを大人しく待つことにした。
 ――ちらほらと、招待客であるらしい人々が、こちらへ向かってくるのが見えた。

 バロア・リィムは、受け取った招待状に、「あなたの大切な方の素敵な姿が見られますよ」という一文が添えられていたことが気になって、お茶会への参加を決めた。
 正直、あそこのカフェとその経営者及び従業員たちは、バロアにとって鬼門もいいところだ。彼女らと関わるとロクなことがない。
 しかし、
「大切な方って……誰だ?」
 とにかく、そこが気になる。
 『大切な方』。
 なかなかに気恥ずかしい表現だ。
「……いや、そんな、まさか……ね」
 チラと脳裏をよぎったのは、先日のちょっとした事件で結びつきが強まった、居候の少女の笑顔だ。
 彼女と自分が、大切な方、なんていう恥ずかしい言葉で括れるような関係なのか、バロアには判らないが、気になることは確かだ。自分の目で確かめたいと思う。
「……行ってみるか」
 いざとなったらアポピスに助けてもらおう、ああでもそういやこないだのアレではまったく何の手助けにもならなかったよね彼、などと思いつつ、バロアはお茶会への参加を決める。
 ――まさか、その『大切な方』の真意が、『ともに地獄を経験した漢女たち』だとは思いもせずに。

 クラスメイトPは、電話を切ったあと、荒い息を吐きながら、震える手で招待状を手に取り、再度内容を確認した。
「ファ、ファイナルレター……!」
 前回のお茶会で、従業員として潜入することに成功していた彼は、今回のお茶会でなにが行われるかをわずかなりと理解していた。
 そう、間違いなく今回はメイドだ。
 しかも自分たちがそれになるのだ。
 おまけに、脳内を吹き荒れる混乱と興奮のままに電話をした相手、親友と呼ぶ彼のもとにも同じ招待状が届いていると言う。
 正直、もう駄目だ、と、世を儚みそうになったクラスメイトPだったが、
「……」
 ふと脳裏をよぎったのは、女王の、あのときの、切ないくらいに美しい、優しい微笑だった。彼女が、彼女たちが、今、とても満ち足りていて、幸せだということを如実に語るあの表情だった。
「……うう」
 多分に傍迷惑さを含んでいるとはいえ、それが彼女たちの幸せになり、彼女らに喜んでもらえるなら。
 心の底から呻きつつも、お人好しの彼が、そう思ってしまったのは、もう、運命だったのかもしれない。
 ついでにその方が喜ばれるだろうと、招待状が送られているだろう面々(大体想像はつく)への警告も止めた。
 死なば諸とも、挑め装の塔。
 それでも、例え何が起こるか判っていたところで、まだ男という性別を捨て切れていない人間には、ダメージの大きいイベントになるだろうと容易く予想できたので、クラスメイトPは、せめて何か衝撃を和らげる方法を、と、必死に思案する。
 ――あれでもないこれでもないと脂汗を流しつつ考えに考え、最終的に『それ』を決断した時、自分の脳味噌が歪んでいたことに、そのときのクラスメイトPは気づかなかった。

 一乗院柳(いちじょういん・りゅう)は、招待状が届いた時、これでようやく、今度こそ本当に、『普通』の、楽しいお茶会が出来るのだと喜び、また、給仕をしてくれる森の娘たちの美しい姿を想像して頬を緩めた。
「そうだよ……うん、お茶会って言うのは、お客が色々な危機にさらされるようなものじゃなくて、もっとこう、ホッと出来て、楽しくて、目の保養にもならなくちゃ」
 前回、メイドカフェ云々の話しをしていたから、趣向を凝らして、というのはきっとそのことだろう。
 中身こそ多少(多少?)黒いが外見は申し分のない娘たちの、外見に相応しい衣装を見たり、サービスを受けたり出来ると考えるだけで心が弾む。
 もちろん、まったく懸念がないわけではなく、今までに受けた『男としての大切な何か』を試されまくった、諸々の試練が脳裏をよぎるものの、森の娘たちのメイドさん仕様、という誘惑の前にはそれも無力だ。
「……いや、今度こそ、本当のお茶会だから。きっと大丈夫、うん」
 正直、夏の、砂浜の片隅で行われたあのイベントで、激烈に目に痛い水着ハザードに巻き込まれたときなど、真剣にこの世を呪いたくなったものだが、咽喉元過ぎれば熱さ忘れるというか、案ずるより生むが易しというか、羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くでは困るというか、とにかく、柳は行く気満々だったし、当日をとても楽しみにしていた。
 綺麗な女性たちと一緒に、美味しいお茶とお菓子で楽しい一時を。
 こんなに幸せなことはないのではないか、と、思う。
 ――無論、その期待と希望も、容易く裏切られてしまうことになるのだが。

 片山瑠意(かたやま・るい)は、いつも入り浸っている友人の家から帰宅してそれに気づいた。
 ポストに入っていたのは、いい匂いのする綺麗なカード。
 差し出し主は、カフェ『楽園』。
「招待状……?」
 新作のスイーツに、趣向を凝らしたサービスでおもてなしを、と書いてある。
 それは、なかなかに魅力的なお誘いだ。
 誘惑されそうになる自分を瑠意は否定しない。
 しかし、
「……なんだろう、何か、いやな予感がするんだけど……」
 瑠意も、すでに何回か、カフェ『楽園』と非情な仲間たちの被害に遭っていたから、よく判らないなりに、何かしらの危険を察知することは出来た。
 ロクなことにはならないぞ、と、第六感が告げている。
 が。
「でも……新作スイーツかぁ」
 あそこは危険な場所だ。
 特に、男と言う生き物にとっては。
 しかし同時に、男と言う生き物にとっても、それが甘味好きであるのなら、あそこはまさしく『楽園』なのだった。
「こないだの、マスカット・オブ・アレキサンドリアのタルトも美味しかったよなぁ……」
 濃厚にして芳醇なる瑞々しい果実の甘味と、ほどよい歯応えのあるタルト生地、そして絶妙な甘味と舌触りのクレーム・パティシエールを思い出して、瑠意は招待状をまじまじと見つめた。
「……ちょうど、オフなんだよな」
 やめておけと囁く第六感に反して、気持ちは参加に傾きつつある。
 何せ、美味なお茶と菓子が彼を待っている。
 瑠意の健啖ぶりと甘味好きぶりは、周囲にも知れ渡っているほどなのだ、その彼が、新作の、どう考えても美味であろうスイーツを見逃してしまうことなど、出来るはずがない。
「うん、行くだけ行ってみよう。警戒しつつ」
 それに、あの、腹黒く人でなしで魅力的な森の女王と、彼女の愛する森の娘たちと、何かしらの楽しいひとときが持てれば、とも思うから。



 そうして彼らは、午前八時前という早くから、カフェ『楽園』の入り口付近に集うこととなったのだった。
「結構、見知った顔ばっかりになったねぇ?」
 宗主が集まった面子をぐるりと見渡しながら言うと、
「あれ、今日って何かあったんだっけか?」
 首を傾げた剛政が同じように皆を見渡しつつ訪ねる。
「ん? 神宮寺さんは何で来たんだ?」
「俺か。ジジイに新作のタルトを買って来いって言われたんだよ。新作ともなると長蛇の列だから、開店前から並べって言われてな。買い逃したらあとが怖ぇし、仕方なくこんな時間から来たんだが。……そういう梛織は、何で来たんだよ? そんなに甘いものが好きなようにも見えねぇけど」
「え、あー……うん、喩えて言うなら仁義に殉ずるため、かな……」
 今日行われることをすっかり忘れている剛政の問いに遠い目をするのは梛織で、
「お菓子楽しみだなぁ、お菓子! ここのすいーつ、超うまいもんな!」
 仔狸姿のままでぴょんぴょん跳ねて、皆の肩や頭によじ登ったり、そこから飛び移ったりして、全身で喜びを表しているのは太助だ。
「まぁ……確かに、よく知ってる奴らばっかりだな。ある意味安心つーか、ある意味不安つーか」
 馴染みのありすぎる面々に、香介が呆れたように呟き、
「でも、えらく早い時間から集まるんだなぁ。開店準備とか、大変なんじゃないの? ねえ、リチャード。っていうか君、何か変わった恰好してるね」
 まだそれほど寒くもないのに、何故か帽子とコートをまとっているクラスメイトPを見たバロアが首を傾げる。
「い、いや……気にしないでもらえると嬉しいな、うん。これはその、いわゆる勝負服ってヤツだから」
 クラスメイトPは、悲痛ですらある表情で『楽園』の扉を見つめていた。
「そういえば……こういう集まりになら絶対招待されてそうな人が足りませんよね。今回は欠席なのかな?」
 柳が、銀幕市民の中では特にカフェ『楽園』と関係の深いとある漢を思い起こしながら言うと、
「あー、そういえば。あのヒトなら何が何でも出席させられてそうな風情すらあるんだけど、いないな。他に用事でもあったのかなぁ。残念、一緒にお茶したかったのに」
 同じく、それに思い至ったらしい瑠意が、周囲に視線を流しながら首を傾げる。
「あー、そういやいねーな。絶対に来るだろーと思ったのに」
「女王陛下、お気に入りだもんねぇ先代のこと。娘さんたちとも仲いいし」
「命の恩人らしいからねぇ? それに、彼、確かにいい男だもの」
 確かに彼が来ていないのはおかしいと、皆、不思議がって周囲を見渡してみたものの、銀幕市一と称される、漢の中の漢の姿はどこにもなかった。遅刻するような人物ではないから、やはり他に、何か、譲れない用事でもあったのだろう。
「まぁでも、きっと、またやるだろうから、ね」
 宗主がのんびりと言って微笑んだ時、『楽園』の扉が開き、そこから、森の娘の筆頭、リーリウムが顔を覗かせた。
 花の顔(かんばせ)が、まさに花のように美しくほころぶ。
「来て下さったのね、皆さん。とても嬉しいわ」
 招待客たちがめいめいに挨拶の言葉を口にすると、リーリウムは、シックで少しレトロなワンピースに純白のエプロンという、マニアにはたまらない衣装の裾を摘んで優雅にお辞儀をし、そして彼らを促した。
「さあ、では、早速。どうぞお入りになって。わたしたち、皆、今日をとても楽しみにしていたんですよ」
 にっこりと美しく微笑んだリーリウムに扉を指し示され、一同、瑞々しい緑に彩られた店内へと踏み込む。
 ふわり、と、優しく甘い香りが漂ってきた。
 気持ちが華やかになるようで、それでいて穏やかになるような、不思議な香りだった。
 香なのか、それとも何かの花なのか、不思議な匂いだと、でも悪くないとそれぞれに言葉を交しつつ、緑に覆われた通路を通って店内へ踏み込む。
「あぁ、なんだか可愛い内装だね?」
「うわーすげぇな。俺とか場違いなんじゃねぇのか、これ」
「っていうか、今ここにいる俺たち全員場違いだと思うぞ、神宮寺さん」
「へええー、きれーだなぁ。あそこのかざりとか、手間かかってそうだもんなぁ」
「うん、綺麗だし、可愛いし、すごいなぁと思うんだけど……なんだろう、ベビーピンクとピュアホワイトの空間に、物凄くいやな予感がするのは僕の気の所為……?」
「そ、想像以上のすごさだなぁ……! いや、確かにすごく素敵だとは思うんだけど!」
「オレにはちょっと敷居の高い空間だな、これ。ここで茶会やんのか? マジで?」
「でも可愛い恰好をした森の娘さんたちのサービスを受けるには相応しい場所のような気がするんですが」
「んー、まぁ、いいんじゃね? すぐに慣れるって。目に優しい配色であることは確かだし。――あ、なんかいい匂いがする。もう焼いてあるのかな、新作タルト。楽しみだなぁ」
 一同、めいめいに、ホワイト&ベビーピンクを基調とした、フリルとレースと瑞々しく可愛らしい花々に彩られたキュートなカフェ空間への感想を述べたあと、それでこれから何が始まるのかと、ぐるりと周囲を見渡した。

 ――そして、『それ』に気づき、全員同時に硬直する。

「ぎ、ぎ、ぎ……!」
 油の切れた機械のような声を漏らしたのが誰だったのか、誰にも判らない。
 それどころではなかった、というのが正しい。
 視界いっぱいに広がる、XXLサイズと思しきベビーピンクのエプロンドレス、縁に薔薇とハートが刺繍された純白のフリルエプロン。頭にはふさふさの犬耳。メイクはふんわりパステルに、耳元には森の娘お手製のベイビーピンク・インカローズを使った可憐なイヤリング。
 そんな、萌えを体現したかのような仕様で、腕まくりをし、たくましい腕をさらしたベビーピンクの巨漢が、腕組みをした状態で雄々しく佇んでいる。
「お帰りなさいませご主人様ああもうコンチクショウめ……!」
 低く渋みのある声はちょっと裏返っている。

「ぎ、銀二さああああああああああんんんんんッ!?」

 壮絶としか言いようのないその出で立ちに、誰かが悲鳴を上げた。
 無論、今から何が行われるのか、自分たちがどうなるのか、真実を察して。

 ――店内の植物が、ざわざわとざわめくのが聞こえた。



 ★2.前日:ひすとりー・おぶ・べいびーぴんく

 八之銀二(やの・ぎんじ)が招待状を受け取ったのは『お茶会』開催の一週間ほど前のことだった。
 いい匂いのする美しいカードに踊る、見事な手蹟は、彼を、日頃の感謝を込めたお茶会に誘っている。
「……」
 お茶会が魅力的で、楽しいことを銀二は否定しない。
 前回も、楽しい時間を過ごしたこともまた事実だからだ。
 しかし。
 招待状を矯(た)めつ眇(すが)めつした銀二は、
「何だろう。この招待状から幻視出来るベビーピンクなオーラは」
 これまで被害に遭ってきた経過から危機察知能力が強化されたものであるらしく、このカードの向こう側、遠くない未来に含まれる地獄がわずかに透けて見えてしまっていた。
「いや……うん、もちろん、『楽園』の菓子は美味いし、茶会は嬉しいんだが。何だろう、魂の奥底で、全身全霊で逃げろと叫ぶこの感覚は」
 ぶつぶつとつぶやき、再度カードを眺める。
 ――とはいえ、次の日とその次の日は別件で忙しく、招待状のことも茶会のことも、銀二はすっかり忘れていたのだが、三日前になってカードを再発見し、そうだ招待されていたんだ、せっかくだから参加すべきだろうか、と思い出した辺りで彼は異変を察知した。
「……おかしい」
 冷や汗めいたものを流しながら、銀二は招待状を凝視する。
「何故だろう。何故、当日に近付けば近付くほどに身体が重くなるんだろう」
 まるで、自分の身体が、肉体全体で『行くな』と叫んでいるようだ。
 それは日を追うごとにひどくなり、女王と愉快な仲間たちのくすくす笑う声までが幻聴として聞こえるようになった結果、二日前になって銀二は晴れやかに決断した。
「そうだ。行くの止めよう。そうだそれがいい」
 恐らく、本能の告げることは正しいのだ。
 行けば、八之銀二という人間のヒストリーに、また素敵に甘塩っぱい、ベビーピンクの一ページが刻まれてしまうのだ。
 正直、勘弁。
「うん、別にいいよね一日くらい俺いなくたって」
 そんなわけで、ベビーピンクの一ページ更新を阻止すべく、逃避行動に出た銀二だった、が。

 ――――駄目でした。

 わざわざ草木のない、地下水道の一角に隠れていたのに、見事に捕縛されたのが前日の夕方だ。
 一体、何をどうやって彼を探し当てたものか、ウナギの食事を髣髴とさせる動きのツタが、前後左右から、地下水道の壁・天井・床を覆いつくさんばかりの勢いで殺到してきたとき、銀二は正直、人生とか男としての矜持とか出身映画との兼ね合いとか、そういう諸々の大切なものがガラガラと音を立てて崩れ落ちてゆくのを絶望とともに聞いた。
 女王のツタは、何せ、空に浮かぶ神殿に到達するほど長く伸びる。
 銀二を見つけ出すことが出来たなら、『迎えにやる』くらいはなんでもないだろう。
 ちょっと恐怖すら感じるほどの勢いでぐるぐる巻きにされ、店仕舞いをしたカフェ『楽園』に運び込まれ、女王と鬼畜な仲間たちと対面した銀二は、彼女らが、特大サイズのメイド服を手ににじり寄ってくるのを目にして思わず魂の奥底で割腹しそうになった。
 美しい光沢は、きっと、シルクや別珍を駆使して作られているからだろう。襟元や袖口を飾る繊細なレースは恐らく手編みで、製作者の怨念、もとい想いが込められているのが判る。
 判るが、納得は行かない。
 それを自分が着るとなれば、なおさらだ。
「ちょ、ま、待て待て待てッ!?」
 ツタで緊縛プレイ中の銀二に逃れるすべはないのだが、だからといって諦めきれるわけもなく、何とかして突破口を見出そうと、
「そもそも何で俺がそれを着にゃならんのだ! 日頃の感謝を込めた茶会への招待だったんじゃないのかッ!?」
 まさしくもっともなことを口にするのだが、
「ああ……ごめんなさい。実はあの招待状、少し間違いがあったんです」
「間違い……?」
「ええ。最後にね、『追伸、招待客の皆様には、是非とも漢女としてお茶会を彩るお手伝いをお願いしたく思います。快くお受けくださいますよう、どうぞよろしくお願いいたします』って書くのを忘れていたらしくて」
「いやいやいやまずそこをきちんと表記しようぜ担当者ッ!? JAR○とかに訴えられても知らないよ俺ッ!」
「ええ……不幸な行き違いはあると思うんですけど、きっと大丈夫。皆さん、判ってくださるわ、だから銀二さんも心配なさらないで」
「そうよ、だって、こんなに素敵な衣装を準備したんですもの。皆さん、可愛いメイドさんになれるわ」
 無論、腹黒確信犯・カフェ『楽園』従業員一同におかれましては、それらの突っ込みは無意味だった。
「その根拠のない自信はどこから来るんだ、という突っ込みは無意味だとして、だ……大体、何故俺の居どころが判ったんだ? あんな、草木のない場所にいたのに……!」
 逃げられなさをひしひしと感じつつ銀二が問うと、女王レーギーナは莞爾と微笑み、
「あら、だって、水分があれば、どこにでも藻や植物性プランクトンが存在するでしょう? あれもまた、立派な植物ですもの。わたくしの愛しい友であることに変わりはないわ。あの子たちの力を借りれば、人ひとり探し出すくらい、容易いわよ?」
 まるで天地の理のような、当然のような口調でそう断言した。
「お、恐るべし、神代の森の女王……!」
 もはや逃げ場なし。
 がくりとうなだれる銀二に、冴え冴えと美しい、それでいて黒々と恐ろしい笑顔を浮かべた神聖生物たちがにじり寄る。

 ――銀二の、帆布を引き裂くかのようなその悲鳴を聞いたのは、恐らく、店内の植物たちだけだったはずだ。



 ★3.午前八時半:壮絶! ホラーな追いかけっこ

 そして今に至る銀二を、招待客と書いて犠牲者と読む面々が、驚愕の表情で見つめている。
「と、いうことは、まさか……」
 ぎこちなく周囲を見渡したのは、主人に命ぜられて新作スイーツを買いに来ただけの(と、本人は思っている)剛政だ。
 彼の言葉に、うふふ、と笑ったのは、いつの間にか周囲を取り囲んでいた森の娘たちだった。
「ええ……もちろん。ねぇ?」
「だって、今日の特別なお茶会の目玉は、漢女なメイドさんたちなんですもの。特別な趣向を凝らして、って書いてあったでしょう?」
「不幸にも、書き損じがあった所為で、相互理解には少し時間がかかるかもしれないけれど……問題はないわよね?」
「どんな素敵なメイドさんになるのかしらね、皆さん」
「本当、楽しみだわ」
「ええ、わたしも漢女メイドさんにお給仕されてみたい」
 彼女らが手を取り合って笑いさんざめく姿は大層美しく、また愛らしいが、口にしている言葉はロクでもないことばかりだ。
 娘たちの笑顔や言葉を目にして、自分たちが騙されたことに気づいた面々が、素早く逃げの体勢に入るよりも早く、店内の植物たちがざわめいた。
 見れば、すっかりジョブチェンジ完了★ のメイド長、銀子姐さんが、輝くように白いエプロンの裾で、そっと目尻を拭う仕草をしている。しているが、助けてくれるつもりは一切ないらしい。
 まさしく死なば諸とも。
 俺だけがメイドでたまるか、という声なき絶叫が聞こえてくるかのようだ。
「ちょっ……待て、俺はジジイの命令で新作スイーツとやらを買いに来ただけで、メイドなんかになりに来たわけじゃねぇ……ッ!」
 諦めがつかず叫ぶ剛政の、ジーンズの尻ポケットから、入れたはずのない招待状が、恐ろしいタイミングのよさでふわりと零れ落ちたのは次の瞬間で、
「はめやがったな、あのクソジジイ……!!」
 蒼白になった剛政が絶叫すると同時に、

 ざわざわざわッ!

 漢女たちには馴染みの深い、いつもの、あの音が響いた。
 蠢き増殖する緑のロープたち。
 しかしながら、銀幕市に籍を置く人々はさすがに一筋縄ではいかず、特に高い身体能力を持つ面々は、ツタが襲いかかって来るのを察するや否や、脱兎の勢いで走り出していた。
 そもそも警戒しながら足を踏み入れていた香介のスタートダッシュがもっとも速く、
「そうそう何度も捕まってたまるか!」
 スター疑惑保持者に相応しい速度で店内を走りぬける彼の隣に、
「嫌な予感はしてたけど、結局こうなるのかよッ!」
 友人からもらった守り刀【凌牙】を手の平から顕現させて襲い来るツタを切り払った瑠意がすぐに並ぶ。
 が。

 ざわざわざわッ!

 ツタはあっという間に、正規の出入り口のある扉及びその通路を封鎖してしまった。一体どれだけの質量の植物が、今このカフェの中で蠢いているのか、想像するのも恐ろしい。
「ちっ」
 舌打ちをした香介が、窓を蹴破ろうと通路のそれを見上げると、まさかその視線で彼の意図を察したわけではないだろうが、瑞々しい緑色のロープたちがガラスの窓を覆い尽くし、香介の思惑を封じてしまった。
 ぞわり、と迫るツタの群れ。
 下手な恐怖映画より怖い。
 でも確か『薔薇よ密やかに』ってホラーものじゃなかったよな!? とツッコミを入れつつ、ふたりは瞬時に機転を利かせて店内へ駆け戻る。
 店の中から、テラスを伝って外へ出ればいいと判断したのだ。
 折しも店内では戦いも佳境に入っており、すでに、B級ホラー映画の触手さながらの動きで殺到したツタたちによって、不幸にも逃げ遅れた剛政・太助・クラスメイトP・柳の捕獲が完了してしまっていた。
「ちょ……俺は遣いで来ただけだ、巻き込むなあぁっ!!」
「うふふ……今回は殿方の身体のままなんですね、剛政さんは。ご主人様はわたしたちのツボを心得ていらっしゃるわ、お礼に新作タルトをホールでお持ち帰りいただかなくては!」
「ああ……そうね、それがいいわ。きっと喜んでくださることでしょう」
「ぅおいヒトの言うこと聞けよっ!? 喜ばせるべきはジジイじゃねぇだろうがっ!? まずそこは俺の意志を大事にしようぜ……!」
 必死でもがき、何とか逃げようとする剛政に、そうはさせじとツタが絡みつく。ツタは速く、またその力は強くて、剛政が完全に動きを封じられるまで、そこから十秒もかからなかった。
「クソジジイ、マジで殺す……ッ!」
 半泣きの剛政が叫ぶ中、うねうねとツタが蠢く、ホラー以外のなにものでもない光景を見つつ、テーブルや椅子を蹴倒しつつ、テラスへ通ずる扉へダッシュするのは、梛織・バロア・香介・瑠意の四人だ。
 ちらりと見遣れば、宗主はというと、
「……女装は心の底から嫌だけど。でも……うん、のこのこと敵陣に乗り込んでしまったんだから仕方ないよね?」
 諦め顔で両手を挙げ、降参の仕草をしている。
「あら……もの判りがよい方なのね、宗主さんは。天使様からお話は伺っているけれど……大丈夫よ、とても似合うと思うわ」
「そうかな、どうもありがとう。うん、せめて、あまり色合いの可愛らしくない、ハードでシャープなものがいいかな」
「あら、素敵。ちょうど、毛色の変わったメイドさんを、と思って、そんな衣装をご用意してあるわ。そうね、きっと宗主さんならこの上なく似合うことでしょう。楽しみだわ。名前は……宗良(ソラ)さんでどうかしら?」
 大人としての懐の広さのお陰で一切ツタには絡みつかれていない宗主に、恐らくあれが一番ダメージが少ない、もっとも適当な在り方なのだろうと思わされる四人だったが、無論のこと、諦めきれない連中も、当然いる。
「逃げられないのは百も承知だが、男の矜持に賭けて断固として逃げるッ! 皆、俺のために逝ってくれ!」
 恐ろしくイイ笑顔で、横を走る梛織の足を引っかけ、彼を転倒させて生け贄にと差し出すのは瑠意だ。
「ちょっ……待てやそこの疑惑保持者……ッて、ぎゃ――ッ!?」
 まさか、同じ犠牲者である瑠意からそんな一撃が来るとは思っていなかったらしく、バランスを崩した梛織は盛大につんのめり、床に両手を着くという失態を犯してしまった。
 すぐに跳ね起きて走り出そうとした梛織だったが、モンスターさながらに殺到したツタが足に絡みつき、派手に顔面から引っ繰り返る。
「っしゃ、生け贄確保ッ! そいつ好きにしていいから俺のことは見逃してくれ、なッ!」
 ガッツポーズを取った瑠意が更に加速をかけようとするのへ、あちこちからツタに絡みつかれつつぎりりと歯噛みした梛織は、
「くっそ……あんたらだけ逃がすかよ……ッ!」
 テーブルを蹴飛ばしたときに落ちたのだろう、床に転がる燭台から、火のついていない長い蝋燭を引っ掴むと、瑠意目がけて思い切り投擲した。
 この若さで危険を伴う何でも屋を切り盛りしている梛織の腕力は大したものだったし、また、多少体勢を崩していたもののコントロールも正確で、蝋燭は狙い過たず瑠意の足元を直撃し、
「……ッ!?」
 彼を同じように転倒させることに成功した。
「ち……」
 舌打ちをした瑠意が、バランスを崩しながら掴んだのは――バロアのネコミミつきフード。
 それはもうがっしりと。
「ちょ、人を巻き添えにするの、やめようよ……!?」
 顔を引き攣らせたバロアが必死で伸ばした手は、今まさに自分の隣を駆け抜けていこうとした香介のコートの裾を掴んだ。
「バッ……てめ、離……!」
 同じく顔を引き攣らせた香介だったが、バロアの握力は思いのほか強く、彼もまた体勢を崩す。肉食獣を思わせる勢いで殺到するツタを前にして、この一瞬のタイムラグは致命的だった。
 結果、
「ははっ、ざ、ざまぁみろ……!」
 梛織がツタに絡みつかれながらガッツポーズを取るように、
「くそー……結局こうなるか……」
「キミが邪魔しなきゃ僕は逃げられてたかもしれないけどねッ!」
「そういうてめぇが邪魔しなきゃオレだって逃げられてたっつーの!」
 瑠意、バロア、香介は、団子になってツタに絡め取られ、梛織ともども芋虫のような姿になって、互いに罵りあいつつ、ずるずると会場へ引き戻されることとなったのだった。
 ――会場からは、何やらすでに、魂消るような悲鳴が響いて来るが、四人は聞こえなかったフリをした。
 もちろん、聞いていると、これから自分の受ける仕打ちが如実に想像出来てしまい、思わず切腹したくなってくるからだ。



 ★4.午前九時:絶叫・血涙、美★空間

「お友達を逃がすために我が身を犠牲にする、なんて素敵な友情かしら」
 ひとまとめになって会場へ引き戻された四人に、本気なのか確信犯ボケなのか判然としない、リーリウムのそんな声がかかる。
「いや、全然そんなんじゃなかったような気もするんだけど、素敵な友情とか思うんなら大人しく逃がし……」
「でも」
「え」
「逃げようだなんて往生際の悪……ではなくて、せっかくのお祭にそんなつれないことをなさる皆さんには、お仕置きが必要よね? 大人しく捕まってくださった方々もおられるのに、不平等だわ」
「いやあのっ、リーリウムさん、別に僕は大人しく捕まったわけじゃ!」
「っつーかここまで雁字搦めにしといて『大人しく』とかよく言えるよな……」
「って、え、なあ、俺も美★チェンジ対象なのか? 俺タヌキなのに??」
「ふふふ、いいじゃないですか皆さん、一緒にお花畑に行きましょうよ……!」
「よかねぇよ! っつか、リチャードが絶妙に壊れてる気がするのは気の所為なのか、なあ?」
「すみません全然『大人しく』じゃない気がする僕はまだ修行が足りないんですか。大神官様教えてください……!」
 捕獲済みの面々が、森の娘たちにひん剥かれながら口々に突っ込む中、それらを完全にスルーしたリーリウムが、お仕置き対象の四人に、ふさふさの毛の塊を掲げてみせた。
 恐ろしく精巧なそれは、どうやら獣耳ではなく、様々な動物の尻尾の類いであるらしかった。
 毛艶といい動きといい、本物そっくりである。
「素敵でしょう、イーリスが精魂込めて作ったのよ。でも、初心者に尻尾までつけるのはきついというお言葉もあったので、やめておこうかと思ったのですが、ナオミさんバロナさん香子さん瑠衣香さんには、これ、必須でつけていただきますね」
「っちょ、待……ナオミって、すでに源氏名ッ!?」
「ああ、心配なさらないで、レジィ様にお願いして、絶対に取れないよう魔法で接着していただきますから。――身体に」
「何の心配だよそれッ! ていうか肉に直でつけるのとかやめようぜ!?」
「本物そっくりの動きで、お好きな方にはたまらないと思いますよ」
「たまらんってか、いたたまれんわッ。ま、マジで勘弁……」
「さあ、じゃあ皆、開店までもうあまり時間がないわ、手早くお着替えを済ませてしまいましょう」
 驚愕交じりのツッコミもさらっとスルー。
 女王に変わってカフェ『楽園』の采配を司るリーリウムの鶴の一声。
 別名、死の宣告。
 ものすごく楽しそうな、恐ろしくイイ笑顔の娘たちに取り囲まれ、四方八方から手を伸ばされ、着ているものをあれよあれよと言う間に剥ぎ取られて、被害者たちから悲鳴が上がる。
 逃げなかった(というより、逃げ遅れた)面々のお着替えも着々と進行していて、剛政と柳はすでに、ブルーグレーとスカイブルーの、オーソドックスなデザインのエプロンドレスに繊細な刺繍の施された純白のエプロンという、いわゆるメイド服と言えばこれ、といった衣装に着替えさせられてしまい、床に崩れ落ちて打ちひしがれていた。
 もちろん、メイクもばっちり。
 ちなみに剛政の頭には白い兎耳が、柳の頭の上にはシェットランド・シープドッグを思わせる犬耳が鎮座している。
「ううう……だ、だから来たくなかったんだ、ここ……!」
 森の娘一の黒さと怪力を誇るリーリウムに問答無用でひん剥かれ、普通年頃の娘さんには見せないような部分を凝視された挙句あちこち触りまくられ、脱毛までされてしまった剛政のガラスのハートはズタズタである。もうお婿に行けない。
「こ、今度こそ普通のお茶会だって思ったのに、またこの仕打ち……」
 希望や期待を打ちひしがれ、前回同様可愛いメイドさんになってしまった柳は、これは夢だ、と思い込もうとしていたが、周囲から悲鳴が聞こえてくる所為で気が散って巧くいかない。
 そこへ、レーギーナとの最終的な打ち合わせのためだろうか、今世紀最大級のバッドタイミングぶりで厨房から出てきた妖幻大王・真禮(シンラ)が、完全に着替えの済んだふたりを目にして瑠璃色の双眸を細めた。
 真禮は以前、剛政と柳とバロアが女装をして自分の城を訪れたことをよい思い出、楽しい記憶としてよく覚えているので、漢女たちが胸中に血涙を流していることには気づかぬまま、まったく悪気なく褒めちぎってくれる。
「おお、ターシャ、柳沙、此度も美しいな。女とはやはりかくあらねばなるまい。ふむ……給仕される客は幸運だ、皆が楽しいひとときを過ごして行けることだろう」
 悪意がないと判っているからこそのこのダメージ。
 案の定、
「うう……どこからどう突っ込んでも無駄だとは思うが、心の底から裏拳を放ちてぇ……!」
 剛政は地面にめり込まんばかりの勢いで呻き、
「女じゃありませんし、給仕したいわけでもありません……!」
 柳はこの世の終わりのような表情で打ちひしがれていた。
 しかし、そんなふたりも、森の娘の魔の手にかかって帽子とコートを取り覗かれたクラスメイトPが、何故かナースキャップと桃色の看護婦衣装を身にまとっているのを見たときはさすがに目を剥いた。
 彼の親友、梛織もしかり。
「ちょ、な、り、リチャード……ッ!? 何でそ、」
「うん? いや……ほら、どうせこうなることは判ってたからさ、精神的ダメージを最小限に抑える恰好で行こうと思って」
「真顔が怖いよリチャード! そもそも何がどうダメージ最小限なんだよ!?」
「だって、メイドより恥ずかしい恰好で行けば、剥かれてメイドさんの衣装を着せられてもホッとするんじゃないかなって。ふふふ、ほら、恥ずかしくない恥ずかしくない。梛織もそう思うだろ?」
「い、いや……そ、そうなのかな……って納得してどうする俺ッ! どっちにしても恥ずかしいよ、っていうかなんでそういう結論に至ったのか小一時間ほど議論したい!」
「ちなみに、リオネちゃんの衣装とどっちにするか悩んだんだけど、こっちの方が用意しやすかったんだよね」
「真顔で言うな、涙がこみあげるからッ!」
 脳が沸騰して歪んだと思しきクラスメイトPの選択に、身動き出来ないなりに梛織が涙をこらえる仕草をする。
 そんな彼らにも魔の手は伸び、おふたりは親友らしいですから同じデザインで、と、まったくありがたくない配慮を見せた森の娘たちによって、ふわりと膨らんだ肩口ときゅっと引き絞られた袖が可愛らしい、白い絹のブラウスを着せられ、襟元には、クラスメイトPは臙脂、梛織は朱色の大きめリボン、スカートはふたりとも紺色で、裾がふわっと広がるエプロンは縁を可憐なスミレの花が彩る淡いブルーのエプロンというメイドさんに大変身★ させられてしまった。
 足元を飾るレースのハイソックスがとっても清楚な印象。
 ふたりとも若いのと、体毛も薄かったので、幸いにも全身脱毛まではされなかったし、双方癖のない顔立ちだったお陰で、メイクを施された現在ではあまり違和感なく仕上がっているが、男として色々なものを試されていることに変わりはない。
 クラスメイトPの場合頭にチンチラを髣髴とさせる猫耳が乗っているだけだが、絶賛『お仕置き』中の梛織は三毛猫っぽい耳に同じ系列の猫尻尾までくっつけられてしまっている。自分の意志で動かせるのが恐ろしく怖い。
「ふふふ、嬉しいなぁ、梛織とお揃いなんて……! ああほら、お花畑が見えるよ、綺麗だなぁ」
「頼むから帰って来てくれ、そこでボケられると俺が辛い……ッ!」
 すでに色々なものを放棄しているクラスメイトPに、梛織が涙ながらに訴えるが、意識をすっかりお花畑に遊ばせている彼には、どうやらその悲痛な言葉は届いていないようだった。
 うふふ、そうね、素敵ね、などと、森の娘たちが同意している。
 そのすぐ傍では、わざわざ人間型に変化させられた太助が、
「いええ!? ちょ、待て! チョコを食わせろ! いやだ! ロリ開拓はいやだぁあああ! 小さいものクラブなのに俺ー!」
 などと必死の形相で叫んでいるが、もちろん、着替えを遂行する森の娘の手は止まらない。
 そう、美少女化出来るチョコレートで『ひまわり』なる姿になったことのある太助だが、今回はまんま少年の身体におかっぱ風カツラだのエプロンドレスだのを着せられているのだ。
 色は鮮やかな……そして元気いっぱいのパステルイエロー。
 ちなみにエプロンドレスと、薔薇とハートが刺繍された純白のエプロンのデザインは、向日葵の方が『元気な膝小僧を出す』という萌え演出のためにスカートの裾が短めであることを除けば、メイド長・銀子姐さんとまったく同じである。
 ふたりで並ぶと凄い違和感。
 何この凸凹コンビ。
「向日葵ちゃんはこの幼さが可愛らしいから、お化粧はなしにしましょうね」
「そうね、この素材を化粧で隠してしまっては惜しいわ」
「ふふふ、狸耳と尻尾の向日葵ちゃん、とっても素敵ね。可愛いわ」
 輝かんばかりの黒い笑顔で、怯えて尻尾を腹の方に丸めてしまっている太助を取り囲み、娘たちが笑いさんざめく。
「ううう……び、美少女化したんだったら女の子のかっこうしても別にいいけど、お、男のままって……!」
 耳をぺったりと伏せた怯えの姿勢のまま、内心で葛藤しつつ呻く。
 カフェ『楽園』が恐ろしい場所なのだということを、今更ながらに知ってしまった太助だった。
 そんな彼らを見遣りつつ、
「ああ、うん、なんだか楽しそうだね。俺も手伝おうかな」
 などと暢気に笑っている宗主はというと、全身黒の、ハードなゴスロリを思わせるデザインの、斬新なカットスカートにヒールブーツを装備し、身体前面を覆うレースのエプロンではなく、腰から下にのみまとう、黒地に小さく薔薇の刺繍がされたエプロンで、美しい銀髪は解き流して、鎖をモチーフにしたオブジェつきの首輪型チョーカーという、『毛色の変わった』ハードなメイド姿に変身していた。
 頭の上には狼耳が鎮座している。
 繊細な美貌の持ち主なので、少し化粧を施すだけで、まったく違和感がなくなっているが、本人は着てしまえばもう自分では見えないので、あまり気にはならないらしい。
 宗主の視線は、現在着々と着替えが進行している香介に釘付けだ。
「い、一体何回目だ、これ……」
 見かけによらず怪力な(何せ握力計を握り潰したというから相当だ)娘たちに四方八方から群がられ、問答無用でひん剥かれて、幸い濃い体毛とは無縁だったお陰で脱毛まではされなかったもののあちこち整えられた挙句、赤地に黒で蓮華が描かれたアジアンテイストのエプロンドレスに着替えさせられて、上からやはり純白のエプロンを着せつけられた香介は、午前九時にしてすでにぐったりと疲れていた。
 エプロンドレスは、西洋のドレスと東洋のキモノとを掛け合わせたような、レトロな印象でいて斬新なデザインで、しかも布地は総シルク、かなり高価と判る代物だったが、そんなものは胸中を吹き荒れる懊悩の前には無意味だ。
 頭の上にはゴールデン・レトリーバー的な垂れた犬耳と、それに準じた長くて柔らかそうな尻尾。
 しかし、線の細い、中性的な美貌が災いして、メイクなどほとんどなくとも恐ろしく様になっていることも否めない。
 香子ちゃんに笑顔でお給仕されたら、大抵の男は陥落するのではなかろうか。
「……香介」
 だから、彼を溺愛している宗主が、
「な、なんだよ」
「――……結婚しよう」
 思わず真顔で求婚してしまったのも、ある意味仕方のないことだった。
「はいッ!?」
 告白された方はそれどころではなかったかもしれないが。
 あまりにも真顔過ぎた所為か、香介に一歩後退されて、ちょっぴり切なくなった宗主である。
「……そんなに嫌がらなくても」
「嫌がるっつーか、突然ワケ判んねぇこと言われたら誰だってビビるわっ」
「えー? じゃあ、まずは相互理解を深めてから……」
「今更何をどう深めて、その後何をどうしたいんだ、あんたはっ!」
 美★空間にさらされてダメージを受けているところに、突然、予想もしなかった位置から攻撃を喰らえば誰でも動揺するだろう。
 思わず息を荒らげて突っ込む香介に、残念がる宗主。
 それを目にした娘たちが、あらあら痴話喧嘩? などとありがたくない横槍を入れる。その娘たちに、写真を分けてくださいね、と真顔で頼む宗主と、写真なんぞ撮らせるかァと絶叫する香介。
 恐ろしいカオス空間だった。
「うう……何かもう、生きて帰れんの? って気になってきた」
「た、確かに。っつか、カラダは生きてても、男としての矜持は死んでるかもしんねぇ……!」
 周囲の惨状に、何故か手を取り合ってガタガタ震えつつ、己が未来を憂えるバロアと瑠意にも、無論、森の娘たちの魔手は伸びた。
「大丈夫、痛くありませんからねー?」
「そりゃ肉体的な痛みはないかもしれないけど、それ以外の色んなものが痛むってか傷むよっ!」
「バロアいいこと言ったっ! お店のお手伝いくらいいくらでもしますから、メイドさんは勘弁してよホント!」
 往生際悪く、ツタから逃れようともがくふたりだが、ターゲットロックオン★ 済みの獲物を、森の娘たちが逃すはずもない。
 瑠意の主張は完全にスルーされた。
 馬耳東風ってこういうことを言うのかな、などと、瑠意が遠い目をしながらつぶやいている。
「さあ、ではまず脱いでいただこうかしら、っていうか剥かせていただきますねー。あら、バロナさんたら、これ、飾りかと思ったらなまものなのね! 素敵だわ、生ネコミミのメイドさんなんて!」
「いや、これには深いわけが……って、バロナじゃないし! ちょ、ちょっとそこの娘さん!? ど、どこ触ってんの、キミ!?」
「あらごめんなさい、つい」
「つい、でセクハラされちゃたまんないよ!? っちょ、それマジで生えてるんだからね、キミたちの怪力で引っ張って千切らないでよね!?」
 すでに何度か被害に遭っているため娘たちが手馴れているのと、小柄なのも災いして、ネコミミフードその他を手早くひん剥かれ、おまけに着替えにかこつけて様々なセクハラを受けつつ、
「うあぁ……ちょ……何この視覚的暴力……!」
 バロアが着せられたのは、艶のあるターコイズ・ブルーのメイド服に、淡い萌黄色のエプロンだった。
 メイド服のデザインそのものは剛政や柳が着せられたものとほとんど同じなのだが、こちらは、太ももがチラリと覗く超ミニで、黒いタイツにガーターベルト必須である。絶対領域は死守してあるが、恐ろしく歩き難いし、足元がスースーする。
 尻尾は、シャム猫を思わせる。
「ああ、とっても素敵よ、バロナさん。可愛いわ……思わず襲いたくなるくらい」
 うっとり、と言うのが相応しいだろう表情で、リーリウムが恐ろしいことをつぶやく。本気でやりかねないのが森の娘クオリティなので、バロアは思わずすくみ上がる。
「襲……っ!?」
 そのあとうふふ冗談ですよとリーリウムは否定したが、チラリとこちらを見たエメラルドの視線に、狩人の光がかすめたのをバロアは知っている。
 森の娘、超怖い。
「最後は瑠意さんね! 瑠意さんもそれほど体毛が濃いわけじゃないけど……やっぱり、嗜みとして、ね?」
「ね? じゃないでしょうがっ! ちょ、も……や、やめ……」
 笑顔でにじり寄ってくる森の娘から逃れようと、蒼白になりつつ必死で足掻く瑠意だったが、ツタに緊縛された状態ではなかなかそれも叶わず、あっという間に衣類を剥かれ、手早く脱毛を施され、ついでに色々着替えとは関係ない場所まで触られたあと、
「瑠衣香さんは、やっぱり、紫系統よねぇ」
 黒に近い紫のメイド服に、仄かに薄紫をしたエプロンを、問答無用で着せつけられた。もちろん、超ミニのフリルてんこ盛り、どう考えても男という性別で手を出してはいけない領域の代物だ。
 足元はというと黒紫のタイツにガーターベルト、絶対領域は必須かつ死守である。
 胸元には青紫の大きなリボン、別途鈴付き首輪あり。
 生地はやはりシルクだろう、美しい光沢の、美しい衣装だったが、それを自分が着るともなれば話は別だ。
「うう……やばい、ち、力が抜ける……!」
 メイク完了後、打ちひしがれて呻く瑠意の頭にセットされるのは、ロシアンブルーを思わせる猫耳。先端に青紫のリボンと鈴の付いた尻尾も、瑠衣香ちゃんの可愛いヒップを飾ることになった。
 更に、先だっての砂浜でお披露目された、地獄の茸を改良して作ったというアレなのかどうかは知らないが、胸元につめこまれたミラクルフィットする何かのお陰ですっかりDカップ保持者になってしまった瑠意は、それがふるん、などと揺れて心底驚愕する。
「これ、精神的ダメージでかすぎるんですけど……ッ!」
 恐らく、胸に何かをつめこまれた全員がそう思っていることだろう。普通、一般的な成人男子は、胸元に何かを詰め込まれたりはしないし、一生経験しないままの男の方が多いはずだ。
 何が哀しくて、胸が大きいっていうのも大変なんだなぁ、そうか、大きけりゃいいってもんでもないんだ、などと女性の気持ちが理解できなくてはならないのか。
 夢は夢であってほしかった、と、誰かが呻くようにつぶやいた。
 しかしながら、全員の着替えが完了してしまったこともまた事実で、
「素敵……本当に、素敵ね!」
「ええ、皆さん、とっても可愛いわ。これなら、お客様も喜んでくださることでしょう」
「そうね、間違いないわ」
「あら……もうじき開店ね、急がなくちゃ!」
 娘たちはうきうきと準備を開始する。
 その素早さ、普段の二倍速以上。
 神代の、神聖生物としての力をそんな方向に使わなくても、と、誰もが思った。
 思ったが、口にする度胸はない。
 もちろん、メイドデビューしたくも、お客様に喜ばれたくもなく、
「いやあのっ、せっかく綺麗な森の娘さんたちに逢いに来たのに、漢女集団なんかに出迎えられたらがっかりしますよ! お手伝いならしますから、この格好は……!」
 必死の形相で代表者・柳が主張するが、
「あら……だって」
「え?」
「わたしたちね、今日、どうしても外せない用事があるんです」
「えぇ!?」
「この準備が終わったら、七人とも出てしまうの。用事が終われば帰ってくるけれど、開店にはどうしても間に合わなくって。だから、漢女の皆さんには、お姐さまや真禮様を手伝って、お店の切り盛りを手伝っていただきたいんです。だって、おふたりだけでは大変ですもの」
「いや、え、その、」
「そうそう、寺島さんも来てくださるから、判らないことがあったら彼に訊いてくださいね」
 満面の笑顔でそんなことを言われて、二の句が告げなくなってしまう。
 一切の拒絶を許さぬ笑顔で、
「じゃあ、よろしくお願いしますね?」
 すべての準備を終えたリーリウムが踵を返し、他の娘たちがその背に続くのを呆然と見送ったあと、漢女一同、ここから先が真の試練だということに今更ながらに気づくのである。

 ――時計は、午前九時五十分に差しかかろうとしていた。



 ★5.午前十時:「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 男の矜持にかけて言おう。
 彼らは断じて、メイドさんデビューなんぞしたいわけではなかった。
 メイドカフェが流行っていることももちろん皆知ってはいるが、それは自分がもてなされたりメイドさんの可愛らしい働きぶりを見たりして楽しむのが基本というか大前提なのであって、自分がメイドさんになってご主人様にご奉仕したいわけでは断じてないのだ。
 しかし。
「うう……何かもうすでに列が出来てるっぽいな、表。やばい、このまま逃亡したい……!」
「うん、僕も同感。ホント何この試練。大神官様は一体僕の何を鍛えようと思っておられるんだろう……。でも、この耳と尻尾、女王陛下じゃなきゃ外せないらしいよ」
「あー、うん、女王ならそれやりそうだと思った。実際、そもそも生えてたんじゃねーのか、ってくらいぴったりフィットしてるよな」
「正直自分以外にくっついてたら和むとこだけど、こんなん生やしたまま帰れねぇ……」
 お仕置き組がうなだれるように、彼らには逃げられない事情があった。
「終わったら食べきれねぇほどのお菓子か……し、しれんだけど、がんばるしかねぇっ」
 太助はすでに、食い気によってほとんど陥落させられているし、
「あ、あんな風に頼まれたら、断れるわけないじゃないですか……!」
 柳は明らかに嘘泣きと判る森の娘たちの『お願い』攻撃にさらされた結果、引くに引けなくなっていた。
「……ここで逃げたら、ジジイにどんな嘘の報告が行くか判んねぇ……」
 そもそもの主人の命である新作スイーツを持って帰るには今日一日をこなすしかない剛政と、
「はっはっは、俺なんかレーギーナ君が解呪してくれなきゃ脱げないからな、この呪いのメイド服。この戦場を生き延びるしかないわけだ。うん、腹切ってもいいか?」
 朗らかにちょっぴり壊れ気味な銀二、
「大丈夫ですよ皆さん。大丈夫、きっと新たな世界が開けますから……!」
 すでにすっかり意識を彼岸に遊ばせているクラスメイトPも逃げる気はないようだったし、
「ふふふ、今日頑張ったら香子の写真をたくさん分けてくれるそうだから、頑張らないとね」
 宗主に至っては報酬の素晴らしさにご満悦だ。
 こういうタイプは目的がはっきりすると恐ろしいほどのプロフェッショナルぶりを発揮するから、きっと、素晴らしい仕事をしてくれることだろう。
 宗主の言葉に、だから写真なんか撮らせるかと再度香介は叫んだが、多分言っても無駄だろうな、という諦観が根ざしていたことも事実だ。宗主という人物は、香介にどうにかできるような存在ではない。

 ――そして、精緻な彫刻の施された柱時計が、午前十時を高らかに告げる。

「皆さん、カフェ『楽園』ただいま開店です。今日はようこそお越しくださいましたー」
 メイドたちの美しさを心の底から褒め称えては漢女たちを脱力させていたアルバイトの寺島が、にこやかに――それはやや気弱そうな笑みではあったが、その気弱そうなところが可愛いと、一部妙なファンがついているのも事実だ――扉を開け、客を招き入れる。
 賑やかな、楽しげなざわめきとともに、男女関係のない比率で、客たちが店内へと雪崩れ込んで来る。
 特に今日は、一日限定の新作スイーツがお披露目されるとあって、甘味好きたちの入りは並ではない。
 出来ることなら俺もあの中で限定新作スイーツに舌鼓を打ちたかった、と遠い目をしつつつぶやくのは銀子と瑠衣香だ。身の危険さえなければ、ここは、甘味好きには楽園なのだから。
 しかし、まずやるべきことはお仕事である。
 これが終わらなければ、明日の明るい朝日を拝むことすら出来ないのだ。
 少々大袈裟だが、漢女たちの心境としては聖戦に臨む殉教者である。
 そのくらい、決死の覚悟なのだ。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました。初めての方も、常連の方も、皆さんのご愛顧に感謝いたします」
 客たちが三々五々席についてゆくのを見遣りつつ、女王レーギーナがよく通る美声で告げると、店のあちこちから拍手が起こった。
「今日はそのご愛顧に感謝して、特別なスイーツと、そして特別な趣向をご用意いたしました。どうぞ、心行くまでお楽しみになって」
 にこやかに言った女王が、厨房及び従業員控え室に通じる壁際にずらりと並んだ本日のメイドさんたちをその白い繊手で指し示すと、店内にざわめきが走った。
 そこには多分に驚愕が含まれていて、寿命の縮まる思いをしていた漢女たちは、そりゃ男がメイドの恰好してりゃ誰だって驚くわ、と、次の瞬間巻き起こる爆笑、嘲笑の入り混じったそれを覚悟したのだが、
「銀幕市を代表する漢女たちが、今日、この日のために集ってくださったの。皆さん、どうか、彼女らの美しさを褒め称えて差し上げて」
 まったくもって余計な説明を女王が入れるまでもなく、
「素敵……なんて綺麗!」
「個性がよく出ていて、飽きない顔ぶれね。さすがだわ、女王陛下」
「正直、男って言われなきゃ判らんのもいるもんなぁ」
「あんなたくさんの有名ムービースターに、ほら、あれ、俳優の……」
「あっちは音楽家の? すごい顔ぶれだよね。でも似合ってる。っていうか、並の女じゃ太刀打ち出来なさそうな辺りがちょっと悔しいんですけど」
「女装なんて馬鹿じゃねぇの、とか、ここに来ると言えなくなるよなー」
 拍手まで伴って、妙に肯定色の強い感嘆の声があちこちから上がり、メイドたちは思わず目を剥いた。
 あちこちから、本気と判る溜め息まで聞こえてくる。
「……そういえば、レーギーナ君の趣味のことは、ここ最近で結構広まってるからなァ……」
 何せ、銀幕ジャーナルでその手の話題は何度も紙面を賑わせて来たし、そもそも現在メイドさんの恰好で週に二回アルバイトに来ているムービースター氏もいることだし、先の砂浜でのイベントでも相当数の被害者が出たアレを目にした者は多かっただろうし、それらをお祭り騒ぎとして楽しめる銀幕市民は少なくないし、何より、森の娘たちのコーディネイト及びメイクは完璧なほど美しい。
 似合っていると言われて喜べる殿方はなかなかいるまいが、それでも、指を指されて嘲笑われるよりは働きやすいこともまた確かだ。
「仕事だ仕事。そう、これはちょっと視覚的暴力を伴う仕事なんだ……!」
 瞑目し、物凄い勢いで自己暗示をかけたナオミが無理やり笑顔を作ったのを筆頭に、
「仕方ねぇ……覚悟決めろ、俺。そうだ、舞台の仕事だと思えば、このくらい何とでもなる。平常心平常心」
 同じくコンセントレーションに入った瑠衣香が、額に青筋を浮かべつつも薔薇の花もかくやという美しい微笑を浮かべてみせ、
「まぁでも……お客さんたちと触れ合うっていうのも楽しそうだよね? 貴重な人生経験ってことで、楽しませてもらおうかな」
 まったくもって余裕の宗良が、貫禄すら滲む美しい笑顔でつぶやくと、諦めのつかない面々ももちろん存在はするのだが、やらなければどうしようもない事実が厳然と立ちはだかっているのもまた真実で、漢女たちは皆、銘々に覚悟を完了した。
 それぞれに美しい色合いのルージュで彩られた唇を笑みのかたちにし、お客様たちの方向を向いて一礼すると、

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 この決め台詞とともに、戦闘を開始する。
 もちろん、中には仏頂面のままの頑固なハニーもいたが、そこはそれ。
 教育の楽しみというやつよね、などと、レーギーナが呟いていたことを、漢女たちは知っていただろうか。



 ★6.午後零時:涙が出ちゃう、だって男の子だもん

 戦闘は混迷を極めた。
 こんなカオス空間生まれてこの方見たことねぇ、と誰もが思った。
 噂が噂を呼んでいるのか、それとも誰かが客引きでもしているのか――事実、『用事があるから』と外出した森の娘たちがあちこちでチラシを配っていることを漢女たちは知らない――、ビューティフルかつデンジャラスなメイドさんを目当てにした客は途絶えることを知らず、カフェ『楽園』前には長蛇の列が出来た。
 漢女たちは、その熱気に押されるように、額に汗して働き、「お帰りなさいませご主人様」の決め台詞を連発した。
 ほとんどやけくそである。
 中にはすっかり楽しんでいるものもいたが。

「おい、注文取りに来てやったぞ。さっさと決めろ」
 どんなに可憐なメイド服に身を包もうと、態度が改まるはずもなく、ぶっきらぼうかつ命令口調の剛政もといターシャちゃんだったが、
「いけないわ、ターシャさん、そんなことでは」
 音もなく背後に忍び寄っていたレーギーナに、ふっと耳に息を吹きかけられ、その場で悶絶横転昏倒昇天しそうになった。
「な、な、な」
 驚きのあまり涙目で、耳を押さえつつ振り向くと、にっこり笑ったレーギーナが、ルージュとグロスでふっくら感を増した剛政の唇に、いとおしむような手つきの繊指で触れ、
「この可愛い口が、そんな、粗暴な言葉を吐くなんて。『ご注文はいかがなさいますか、ご主人様』と、お尋ねして」
 そんな、心臓破りの要求をしてくる。
「冗談抜かせ、何で俺が……」
「『ご注文はいかがなさいますか、ご主人様』、ね?」
「だから、」
 反論しようとしたターシャちゃんは、再度にっこり微笑んだ女王の目の奥に、何か妖しい光がチラついた気がして、――その途端、背中に冷水をぶっかけられたような気分を味わい、反射的に頷いていた。
 絶対コイツうちのジジイと同属性だ、という確信が広がる。
 今ここで逆らうと、銀子姐さんのようにメイド服に脱げない呪いをかけられるとか、メイド服の露出度を二倍くらいに上げられるとか、そういう理不尽なお仕置きをされそうな気がして、ターシャはぎくしゃくと無理やり笑顔を作り、女王の『教育』を面白そうに見ているお客に向き直ると、
「ゴチュウモンハイカガナサイマスカゴシュジンサマ」
 超・棒読みではあるが、必死で自分を誤魔化して、とりあえず何とか難問をクリアすることに成功した。
 満足げに微笑んだレーギーナが離れてゆくのを見送って、深々と溜め息をつく。
 帰ったらジジイ殴る。
 そんな復讐心を胸中にたぎらせつつ、ひとまず、くすくす笑ったお客の注文を受ける剛政だった。

 正直なところ、向日葵は葛藤していた。
 美少女化したなら目指せお袖様、どこまでも突っ走ればいい。
 だが、今の向日葵は太助のままで、ひまわりではないのだ。
 子どもだろうが何だろうが、彼にも男としての矜持はある。
「ううう……ごしゅじんさまー、ごちゅうもんはなんですかー」
 葛藤は即ち怯えでもあった。
 狸として生を享け、まさかこんな目に遭う日が来ようとは。
 未だ幼い向日葵ちゃんは、この世には恐ろしいものが存在するのだという事実を今更ながらに認識させられていた。
 しかし、ぺったりと耳を伏せ、ふくふくした尻尾を足の間に挟んで、それでもやるべきことはやらねば、とお給仕する向日葵の姿は、多くの人々のハートを鷲掴みにした。
 これは殿方ばかりではなく、母性本能をくすぐられまくった女性にも多かった。
 小さなメイドさんが、びくびくしながら上目遣いに注文を尋ねてくるのだ。これでハァハァしないはずがあるだろうか、いやない。
 お陰でお客は、向日葵ちゃんを喜ばせるべく、自分の分と同時に、小さなメイドさんへのチップとしてのお菓子も一緒に頼み、チップをそっと、向日葵のエプロンのポケットに忍ばせてくれるようになった。
「……あれ?」
 それがとてもラッキーなことに気づいた向日葵は、マドレーヌやラング・ド・シャやアイスボックス・クッキーやフィナンシェ、果てはチョコレート・ボンボンなどをこっそりと頬張りつつ、
「……もしかして俺、もててる?」
 徐々にツボを心得てゆき、可愛い仕草とおねだりで、目的のものを大量にゲットしてゆくのだった。
 ――もちろん、傍を女王が通るだけで、恐怖と驚愕のあまり尻尾がぶわっと広がるのもまた事実だったが。

 銀子姐さんは、正直、すでに銀幕ジャーナルで色々な痴態をさらしてしまっているので、巨体にフリフリかつレーシィかつフェティッシュな衣装にベビーピンクというそれが、ほぼデフォルトとして受け入れられてしまっているのも事実だった。
 そこはもう仕方がない。それを覆そうと思ったら、相当数の記憶喪失者を作らなくてはならなくなる。
 だから、百歩どころか一万歩譲って、断腸喀血の思いでそれは受け入れるとしても、だ。
「まあァ……素敵ねえぇ……!」
 ピーコック・ブルーの鮮やかなチャイナドレスに隆々たる体躯を包み、派手だが趣味は悪くないアクセサリとメイクでばっちりおめかししたオカマちゃん、顔を満面の喜色に輝かせて店内を見渡した彼(彼女?)に、
「でもアナタ、まだまだなっていないわ。オンナはココロなのよ。まだ男としての余計なものが、アナタを邪魔しているの。オンナの美しさはココロで決まるのだから、もっともっと内面を磨きなさい!」
 ズビシ、と指を突きつけられて断言されたそれを受け入れるべきかどうかは、かなり迷う。
「いや、マギー君、これはだな……」
「ほらその言葉遣いも!」
 銀子もとい銀二は、マギーことマーガレットとは、とあるトレインジャックの一件でほんの少し顔を合わせたことがある程度だが、
「背筋をピンと伸ばして、美しい姿勢で、美しい言葉遣いで、オンナとしての自分を一挙手一投足にまで及ばせなくてはダメよ! そんなことで、銀幕市一の美女になれると思っているの!?」
 などと高らかに断言されれば、いつもの癖で裏拳が疼くが、あぁ突っ込んでも無駄だな、と諦めざるを得ないのが実情だ。
 自分はずっと男でいたいのであって決して女装が趣味なわけでもオンナになりたいわけでもない、という、漢女たち全員が胸の奥に秘めているだろう主張は、恐らく華麗にスルーされるだろう。
「ホント、素敵なお店ねぇ。隅々まで可愛いって、素敵なことよね、ホント。ああ、アタシ、うきうきしてきちゃった!」
 銀二の案内で席に着いたマギーは、銀子姐さんのそんな胸中になどお構いなしで、新作タルトとハーブティを注文したあとも、
「ホラッ、あの銀髪のコや、紫色の髪のコを御覧なさいな! んもう、何て可愛いのかしら! 殿方の恰好をしているときも、さぞかし可愛いんでしょうねぇえ……! あっちのガタイの大きいコは、アナタと同じでまだまだ恥を捨て切れてないみたいだけど……でも、あのお揃いの衣装を着たふたりを見て御覧なさい。あんなに呼吸がぴったり合っているじゃないの! アナタも見習わなきゃ、ダメよ!」
 などと、漢女メイドウォッチング及び駄目出しに余念がない。
「……ぜ、善処する……」
 腹の底から疲労が這い上がってきて、がくり、とうなだれつつ、オーダーを通すべく厨房へ向かう銀子姐さんだった。

 その時、柳沙ちゃんはふたりの女性を接客中だった。
 片方には見覚えはないが、片方にはある。
 少し前、女王陛下のお茶会で一緒になった斉藤美夜子だ。
 もう片方の、黒髪に紫色の目をした背の高い女性は、雰囲気から言って恐らくムービースターだろう。
 美夜子はとても楽しそうに、もう片方は何とも不思議そうな表情で、注文を聞きに訪れた柳を見上げ、こんにちは、と異口同音に言った。
「こんにちは一乗院さん、先日はとても楽しかったですね」
「え、いや、あの、」
「今日のその衣装も、とっても似合っていますよ。可憐で清楚で、一乗院さんの雰囲気にすごくフィットしています。本当に素敵ね、私ももっとたくさん勉強して、もっと素敵な衣装や小物を作りたくなってきます」
 思い切り素性がばれていることにちょっと泣きたくなった柳沙ちゃんだが、だからといって開き直れるほど器用でもない彼もとい彼女は、
「ごめんなさい、一乗院さんって誰ですか? わたし、柳沙って言います、初めまして。あの、ご注文をお伺いしても、いいですか?」
 必死で裏声を使って、一乗院柳という少年が女装をしているわけではないことをアピールする。
「え、あら、そうなんですか、ごめんなさい。知っている方と似ておられたから、つい。そうね……じゃあ、この、新作タルトと、レモンバームのお茶をお願いできますか? ユウレンさんは、何にします?」
 天然気味なのか素直なだけなのかは判らないものの、美夜子はどうやら柳の必死の演技を信じたらしかったが、もうひとりの女性、ユウレンと呼ばれたムービースター嬢はというと、柳の出で立ちを上から下まで眺めたあと、小さな溜め息をついてそっと視線を外し、美夜子と同じものを、と言った。
 自分だって女装したメイドさんが目の前に立ったら同じような反応をする自信があるから、ユウレンがどうこうということでは断じてないのだが、またしてもいたたまれなさという名の現実が襲いかかって来て、柳は、引き攣ったような笑顔とともにオーダーを通しつつ、バックヤードに引っ込んで、壁に頭を打ち付けたい衝動に駆られていた。
 せめてこれ以上知り合いが来ませんように、と天とか神とか運命とかそういうものに祈るしかない柳である。

 香子ちゃんは、逃げるに逃げられない状況下において、いやいや接客をしていた。
 今日を生き延びねばこのカフェから出て行けないのは判るが、もちろん、納得は行かない。何でオレが、と、この数時間ですでに百回は自問している。当然答えは出ないが。
「……あんた、注文まだだったよな? ほら、メニュー。さっさと決めてくれよな、ダルいから」
 しかし、香子ちゃんはやる気こそないものの、そもそも非常に視野が広いため、細かいことにもよく気づいて、今回も午後のお茶を楽しみに来たと思しき男性客、二十代半ばと思われる彼に、他の従業員たちが気づいていないことを理解して、メニューを手渡してやっていた。
 その心がけは大変立派だが、従業員、メイドとしての態度はまったくなっていないも同然だ。ここが厳格なお屋敷だったとしたら、香子ちゃんは、こっぴどいお仕置きを受けるところだっただろう。
 もちろん、幸いにもここはカフェであり、香子ちゃんを虐げる冷酷な領主様は存在しなかった。
 が、
「……駄目よ、香子」
 残念ながらというか何と言うか、彼(彼女)がそんな対応をするたびに、背後から静かな声がかかり、白い繊手がそっと香子の肩を撫でる。そのたび、飛び上がりそうになる香子である。
「わたしたちはプロフェッショナルなのだから、ご主人様にご不快な思いをさせないように努めなくては。笑顔を絶やさないようにしなさい、それがまず第一のわたしたちの仕事なのだから」
 背後にたたずむのは、振り返って確認するまでもなく、ハードなゴスロリメイド服に身を包んだ宗良姉さんだ。
「……吾妻さん、あのな……」
「今は宗良、ね?」
 反論を許さぬ、あまりにも美しい――あまりにも己が職務をまっとうしまくっている微笑に、香子に次げる二の句のあろうはずもない。
 そう、毛色の変わった、しかし神々しいまでに美しいメイドさんとして、各テーブルの賞賛及び羨望の眼差しを浴びつつ忙しく立ち働く宗良姉さんは、そのそつのなさと完璧すぎる接客ぶりを買われ、今や新米メイドの教育係に抜擢されていて、やる気がない香子ちゃんの指導に当たっているのだ。
 香子ちゃんは宗良姉さんの妹分なので、どうしても宗良姉さんには勝てない。
「申し訳ございません、ご主人様。この子はまだ日が浅くて、至らない部分が多いのです。これから教育して参りますので、どうぞお許しください」
 日が浅いも何も多分メイドになったのってほぼ同時だったんじゃ、というツッコミを入れる気は香介にはなかった。宗主は変わり者だが、意志が強く『こう』と決めたことは最後まで完璧にやり通す。そんな彼にツッコミなど入れても無駄だと、これまでの付き合いで理解しているからだ。
 香子ちゃんの写真目当てにここまでプロフェッショナルぶりを発揮されているかと思うと胸中は複雑だが。
 ともあれ、そんな宗良姉さんが、優美かつ優雅な仕草でお客様に頭を下げ、不貞腐れて横を向いている香子ちゃんに慈愛に満ちた眼差しを向けて、
「もう……恥ずかしがり屋なんだから、香子は」
 などと言ったため、香子は思わずその場にうずくまりたくなるくらい脱力したのだが、
「いえ……問題ありません」
 お客はお客でまったく動じず、また怒ることもなく、
「なるほど、メイドでツンデレですか……イイですね。衣装といい接客方法といい、キャラ立ち的にも非がありません」
 むしろ、真剣そのものの表情で、恐ろしくマニアな指摘、もしくは感想をくれた。
「いやあ、いいものを見せてもらいました。こんなところで真のツンデレに出会えるなんて……うちの奥さんも連れてきてあげたかったなぁ。あ、僕、和栗のタルトとマロウブルーのお茶でお願いします。あれば、お茶にホワイトクローバーの蜂蜜を添えてください」
 マニアかつフェティッシュな感想を述べたあと、まったく語調を変えぬままに、晴れやかなイイ笑顔でお茶とお茶菓子の注文をする男性客。
 この男、出来る。
 彼が、邑瀬文と言う名の、銀幕市市役所内映画実体化対策課に所属する職員だということを、残念ながら香子も宗良も知らなかったが、少なくとも彼が侮れないマニア魂を持っていることだけは判る。
「な、何のことかイマイチ判んねーけど、ロクでもねーこと言われてるってのだけはハッキリ判るぜ……!」
 香介は思わず一歩退き、
「ツンデレか……よく判らないけど、なんだか、どきどきするね?」
 思わず素に戻った宗主が興味深そうに呟く。
 しかし、ともあれ、まずはお仕事お仕事。
 優雅に一礼し(一礼させられ)、オーダーを厨房に通したのち、姉妹メイドは次なる仕事に向かう。



 カフェ『楽園』は今日も大繁盛だった。
 漢女メイドたちは休憩を取る時間もないほど忙しく立ち働き、あちこちで賞賛を浴び、どうやったら自分もそんな風に綺麗になれるのかと問われて答えに窮し、時々セクハラされて血涙を流しながらもなお働いた。
 お昼を大幅に過ぎ、メイドになって三、四時間ばかり経つと、ランナーズ・ハイならぬメイド・ハイとでも言うのか、徐々に接客が楽しくなってきたりして、銀子姐さんったら本当に素敵よ、ウフフそうかしらどうもありがとう、でも瑠衣香もとっても可愛いわ、あらあらアタシなんかクララとナオミに比べたら月と鼈(すっぽん)よ、いいえ生猫耳のバロナちゃんにはとても敵わないわアタシたち、いやだわアタシなんか漢女メイドの末席に名を連ねさせてもらっているだけだもの、などという会話が血涙を孕みつつナチュラルに乱れ飛び始めたりもして、更なるカオスの様相を呈してきていた。

 ――無論、まだまだお茶会は続く。



 ★7.午後二時:漢女たちの仕事風景

 ナオミは給仕に励んでいた。
 彼はまだ若いがプロフェッショナルだ、仕事であるならば完璧にこなすという矜持もある。
「お帰りなさいませ、ご主人様! 今日のお茶はどうなさいますか?」
 輝くような笑顔で新たな客を迎え入れるナオミは、そもそもの顔立ちが中性的で、かつ端正に整っていた所為もあって、ふんわりメイクを施された現在では、そのまま街を歩けば十人中九人の男が言い寄ってきそうな美しさと雰囲気を醸し出していた。
 もちろんそれが『梛織』であるのならば、言い寄られた瞬間に蹴り倒しているだろうが。
「はい、特別仕様の新作タルトにダージリン・ティーですね、かしこまりました!」
 例え、騙されて捕獲されてひん剥かれてこの状況に陥ったのだとしても、なすべき仕事があるのならまっとうする、それが梛織のポリシーだ。それは、故郷たる映画でも、この銀幕市でも変わらない。
 華やかな笑顔の内側に血涙を流しつつ、ナオミちゃんはご奉仕に励む。
 厨房にオーダーを通し、大きな溜め息をついたところを真禮に見られて「溜め息などついていてはそなたの美しさが曇ってしまうぞ」などと心の底からと判る表情で言われて更に凹みつつ店内へ戻ると、親友クララが注文の品をトレイに載せて運んでゆくところに行き逢った。
 クララちゃんが運んでいるのは、和栗と洋酒をふんだんに使ったタルトに、鮮やかな青色が美しい、神経を穏やかに鎮める働きがあるというマロウブルーのお茶だ。
 ふわりと立ち上る爽やかな香りは、ナオミの心まで穏やかにするかのようで、彼は思わず目を細めた。
 ――それはいいのだが。
 ナオミは、
「お、お待たせいたしましたご主人さ、」
 視線を彷徨わせ、おどおどとした態度でトレイをテーブルに置こうとしたクララが、何もない場所で思い切りけつまづき、もんどりうって転倒・轟沈したのを目にして片手で顔を覆った。
 緊張しているからなのか、それともそれこそがクラスメイトPクオリティなのか、この数時間で同じような失敗をすでに何回もやらかしているクララは、今回も、見事なまでにお茶とタルトをブチまけ、あまつさえ飛び散った雫でその男性客の靴を少し濡らしてしまったようだ。
「も、申し訳ございませんっ」
 蒼白になったクララが、エプロンのポケットから布巾を出してお客の靴を拭う。
 緊張しているのか、混乱しているのか、何度も何度も頭を下げ、
「すみません、わたしドジでノロマな亀です腐ったミカンです見捨てないで下さいご主人さ(以下略)」
 などと口走っている辺りが涙を誘う。
 やはり見捨てておけず、ナオミは散らばった茶菓子を拾い集め、絨毯を拭いながらその男性客に懇願した。
 俺は今ナオミなんだと強烈な自己暗示をかけた結果、口調は見事な女言葉である。
「あのっ、お願いです、お咎めならわたしが受けますから、クララを責めないでください! この子、すっごく緊張してて……!」
「ナオミ、そんな、わたしのために」
「いいのよクララ、だってわたしたち、友達じゃない」
「ナオミ……!」
 感涙にむせぶクララ。
 そして何故か周囲から巻き起こる温かい拍手。
 靴を濡らされた男性はというと、
「ドジっ娘メイドに、友情ですか。これは……ちょっと、言葉に言い表せない感動がありますね。奥さんにも報告しないと……!」
 ふたりを咎めるでもなく、むしろ感嘆すら滲ませてなにやら呟いている。
「あ、あの……?」
 何を言われたか判らず、ナオミが首を傾げると、お客はにっこり笑って首を横に振り、
「いいえ、素晴らしい萌えをごちそうさまでした」
 と、更によく判らないことを言った。
 ――何にせよ、とりあえず、問題はないらしい。
 ふたりは安堵しつつ汚れた床を綺麗にし、割れた食器を手早く片付けて、一旦バックヤードへと撤退する。
 クララの衣装がお茶で濡れてしまったためだ。
 支え合いながら厨房の方へと戻るふたりを、お客たちの温かい眼差しがいつまでも見送っていた。

 バロナは森の娘たちが密かに戻ってきていたことに気づかなかった。
 気づかないまま、ぶっきらぼうな接客を続けていた。
「はい、これ、メニューね。好きなの選びなよ、僕にお勧めとか聞いたって判らないからね」
 そもそも彼はファンタジー映画出身の闇魔導師で、それほど人付き合いが得意なわけではないし、お店に勤めたこともないから接客など生まれてこの方した経験もない。
 そんなバロナににこやかかつそつのない接客をしろ、などという方が間違ってはいるのだが、
「もう……バロナちゃんったら」
 突然背後から響いた声は、明らかに楽しげではあったが、明らかにバロナを責めていた。
「え、な……ちょっ!?」
 ツイと伸びた白い繊手に背中から抱きすくめられ、首筋についばむようなキスをされて、バロナは舌を噛みそうになった。
「ななな、ナニしてんの、キミ……!?」
 声と腕の主はリーリウムだった。
「ナニ、も、何も。ご主人様への態度のなっていない新米メイドさんに、『教育』を施そうかと思って」
「施さなくていいよ、そんなもんっ!」
 悲鳴を上げつつ、細い腕を解こうともがくバロナちゃんだが、どんなにたおやかに見えても握力計を握りつぶす怪力の持ち主に素手で対抗できるはずもなく、くすくす笑ったリーリウムに、
「駄目よ、ご主人様にそんな粗相をしては。もっと、躾が必要かしらね……?」
 噛んで含めるように言われた挙句、彼女の両手に身体のあちこちをまさぐられ、耳朶まで噛まれて、本気で泣きそうになった。二十八年生きてきてこんな怖い目に遭ったことはないとすら思ったほどだ。
「どどどどこ触ってんのキミ! セクハラとかいうレベルを超えてるよソレ!? ああもう判りましたっ、バロナちゃんきちんとお仕事しますから離してくださいぃっ!」
 意味深な目で見つめてくるお客の視線にいたたまれなくなり、必死でもがいてリーリウムの腕から逃れる。混乱のあまり何か口走ってしまったような気がするが、そのときのバロナの記憶には残っていなかった。
「お、オーダー、通して来るからっ!」
 再度リーリウムに捕まる前に、脱兎の勢いでバックヤードへ逃げる。
 くすくす笑ったリーリウムが、美しい仕草で一礼し、
「もうじき、もっと面白い、素敵なものをお目にかけますから、もう少しお待ちくださいね」
 心の底から楽しそうに言ったそれは、幸か不幸かバロナちゃんの耳には入らなかった。

 友人たちと一緒に食事を作って楽しむ趣味のある瑠衣香は、十人の漢女メイドの中で唯一、厨房の真禮を手伝ってちょっとした軽食を作っていた。
 本来、今日は、新作タルトと漢女メイドのお披露目がメインであって、真禮がランチを供する日ではなかったのだが、茶菓子以外にも食べるものがほしい、という要望で、真禮とともに、サンドウィッチやスープ、オムレツなどを作ることになったのだ。
 もちろんそれを作りつつ給仕の仕事もしているので、正直目の回るような忙しさだったが、実を言うと瑠衣香は、その忙しさを楽しんでいた。
「……女装はともかく、こういうの、楽しいよな」
 大食漢で美味しいものが大好きな瑠衣香ちゃんは、美味しいご飯を作れる人を無条件で尊敬するし、自分が作った料理で誰かが喜んでくれるならこんなに素晴らしいことはないとも思う。
「真禮さん、そっちどう? オムレツ、出来ましたよー」
 ゆるくほぐした玉子に塩、コショウ、砂糖を加え、生クリームを垂らしてふんわり混ぜたあと、手早くフライパンで焼き上げたオムレツは、瑠衣香渾身の出来というべき仕上がりで、立ち上るバターの香りに思わず腹減ったな、などというつぶやきが漏れる。
 瑠衣香が皿に移したオムレツを見遣った真禮は、瑠璃色の双眸を細め、
「おお、よい出来だな。では瑠衣香、そこの棚のトマトソースで、好きなように飾りつけてくれ。やはり、プレーンのオムレツにはトマトソースがなくてはな」
 そう言って、調味料や香辛料が陳列された棚を指差した。
「了解。んじゃ、せっかくだし何か絵でも描いてみるかな……」
 頷いた瑠衣香は、トマトソースのビンを手に取り、とろりと濃厚な液体をスプーンですくって、鼻歌交じりに模様を描いていく。
「よし、出来たっ! んじゃこれ、お客さんに出してきますねー」
「ん、ああ、こちらの皿も同じテーブルに頼む」
「あ、判りました」
「それで一体どんな……ほう、なかなか味のある絵だな。これは、臓物を吹き散らかしながら悶絶しているスフィンクスか? いや、罪人に責め苦を与える地獄の獄卒のようにも見えるな……」
「いえあの、何でそんな凄惨な絵を描かにゃならんのですか俺。日向ぼっこしてる猫のつもりだったんですが」
 歌って踊って戦える美貌のムービーファン、瑠衣香ちゃんにも苦手な科目はある、ということで。
 ともあれ、オムレツとサンドウィッチの皿を席へと運び、美しさを散々に讃えられて微妙極まりない表情をしつつ、再度バックヤードへと戻りかけていた瑠衣香だったが、
「え、あ、あれ……」
 ぐるりと見渡した客席の一角に、ものすごく見知った顔を見つけたような気がして思わず硬直した。
 向けられる、意味深な微笑。
 そのときの瑠衣香ちゃんの胸中を吹き荒れた嵐のごとき感情を、一体誰が想像し得ただろうか。



 ★8.午後四時:カオス、極まる

 順番に帰還した森の娘たちが、漢女たちと同じようなデザインのメイド服をまとって接客に出るようになったので、働きづめだった漢女メイドたちは、午後四時にしてようやく一息ついていた。
 それでもまだ、閉店まではあと二時間もある。
 当然、漢女たちも、お役ごめんではない。
「帰ったら、またジジイになんか言われるのか……正直、突発的に失踪してぇ衝動に駆られるな、意味ねぇけど」
 今からもうすでに落ち込んでいる剛政と、
「ううう……これは夢だ、夢なんだ……!」
 ぶつぶつつぶやきながら壁にごりごりと頭を押し付けている柳、
「いい経験、させてもらったなぁ、本当に。人間が隅々にまで気を配るためにはどうやったらいいか、少し判ったような気がする。……うん、もう少し、頑張らないとね?」
「オレはそーやって何でも肯定的に捉えられる吾妻さんをすげーと思う」
「嫌だわ香子ったら。今はまだ宗良よ?」
「……その、妙に完璧主義で凝り性なところとかもな」
 楽しそうな宗主と呆れ顔の香介、
「色々大変だし、ちょっとなっとくいかねぇ部分もあるけど、でも俺こんなにいっぱいお菓子もらっちまったもんなぁ。お客さんに喜んでもらえるんなら、もーちょっとがんばんなきゃ駄目だよなぁ」
 エプロンのポケットをチップのお菓子でパンパンに膨らませ、ひどく嬉しそうな太助、
「……俺にご奉仕されても動じない銀幕市民の皆さんに乾杯したい今日この頃だ。でも出来ればもっと突っ込んでもらえた方がありがたかった」
 写真を撮られまくり、握手やサインを求められ、果ては美しさを褒め称えられて超絶微妙な表情の銀二、その彼らの横を、ものすごい勢いで瑠意が駆け抜けて行った。
 この世の終わりのような表情をした瑠意が、控え室の隅っこに突っ込み、前のめりに打ちひしがれた姿勢で、
「あ・の・変・態・めええええええっ!」
 腹の底から搾り出すようにして誰かを罵っていると、梛織とクラスメイトP、バロアを伴ったリーリウムが、大きなお盆にジュースか何かの入ったグラスを載せて入って来る。
「皆さん、お疲れ様です。皆さんのご尽力のお陰で、お茶会も大成功に終わりそうですよ。どうもありがとう。お疲れだとは思うけれど、もう少し、頑張ってくださいね」
 にっこり笑ったリーリウムにお盆を差し出され、汗をかいたグラスを指し示されて、とっさにそれを受け取ってしまったのが梛織・クラスメイトP・バロア。何か口にせずにはいられなかったのか、大きな溜め息とともに歩み寄り、グラスを受け取ったのが瑠意だ。
 ――他の面々がそれに手を出さなかったのは、虫の知らせというべきなのかもしれなかった。
「あ、なんかいい匂い。これ、何? まぁいいや、ちょうど咽喉渇いてたんだ」
「ジュース……ではないんですね。何だろう」
「いっそのことアルコールでも摂取したい気分だけどねー」
「っていうか、お茶会が終わったら是非新作タルトをいただきたいんですが。ここまで頑張ったんだから、そのくらいのご褒美はいいよな?」
 口々に言った彼らが、ほぼ同時にグラスに口をつけ、
「結構いけるな、これ」
「爽やかで仄かに甘くて、美味しいですねー」
「後味がいいね。思わずもう一杯、って言いそうになるよ」
「これ、ちょっと脂っこい料理に合いそう。口の中がさっぱりするよな」
 全員ほぼ同時に飲み干したあと、
「うん、ちょっと元気出たにゃん」
「そうだね、これでもう少し頑張れるにゃん」
「あと二時間、試練に耐え切るしかないんだにゃん」
「おう、穏便な帰宅のためにも頑張るにゃん」
 それぞれに感想及び抱負を口にしたあと、ものすごい違和感に顔を見合わせる。
「あ、あんたたち……」
 剛政が蒼白な顔色で四人を見つめる。
 ――どう考えてもおかしい。
 脳裏に自分の台詞を反芻することしばし。

「にゃにゃにゃ、今のは何なのにゃ――――っ!?」

 叫びは、誰のものだったか。
 少なくとも、全員の胸中を代弁していたことだけは確かだ。
 リーリウムはというとまったく反省の伺えないイイ顔で、
「語尾を猫っぽくするハーブティ、成功ですね。さすが、レジィ様はいい仕事をされるわ。うふふ、全員猫耳ですし、ちょうどよかったわね。お客様もきっと、喜んでくださるわ」
 などと、恐ろしくロクでもないことを晴れやかに口にしている。
「っちょ、ま、待つにゃん!? どう考えても痛すぎるにゃよこれ!?」
「こ、ここまでのダメージは想像してませんでしたにゃん……」
「だ……大神官様はこれ以上僕の何を試そうと仰せなのにゃん……!」
「っつーか勘弁してくれにゃ! ハタチを半分以上過ぎてこの語尾とか辛すぎるにゃん!」
 例えどんなに嫌だろうが、何を言っても語尾がにゃんではまったく緊迫感なし。
 何とか難を逃れた六人の漢女メイドたちの表情が妙に温かくなる。
 うふふふふ、と、リーリウムが絶妙に黒く笑い、
「他の皆さんも、いかが?」
 と、『語尾を猫にするドリンク』を掲げてみせるが、何てピンポイントで嫌なドリンク、と胸中に突っ込みつつも、もちろん、首を縦に振るものがいようはずもなく、六人の漢女たちは、自分まで被害に遭ってはたまらない、とばかりに、そそくさと接客に出かけていった。
 この世の終わりのような表情をしている猫な漢女メイドさんたちに、
「ああ、心配なさらないで、お店が閉まったら、解毒薬を差し上げますから」
 ますます逃げられなくなる理由を突きつけて、リーリウムがまたにっこりと笑う。
「せっかくですから、四人で、何かショウでもやりましょうか? きっと喜んでいただけると思うんですけど」
 リーリウムの、にこやかかつ心の底から楽しげなその提案を、逃げ場一切なし、の四人が、無間地獄へのお誘いだと錯覚したのも、当然といえば当然のことだった。



 ★9.午後六時:つはものどもがゆめのあと

 そこから、二時間。
 貧乏籤カルテットはよく頑張った。
 他の漢女メイドたちの目尻に光るものが滲むほど頑張った。
 その頑張りたるや素晴らしく、脳の血管が切れたのかと思しき廃(ハイ)テンションで、請われるままにテーブルを回った四人が、全員で可愛らしく丸めた手を口元に持って行き、招き猫の仕草で「にゃんにゃん★」などとやり始めた辺りで、誰かが感動のあまり男泣きに泣き出すほどだった。
 ――そして、閉店まであと十分、という辺り。
 特別仕様のお茶会だけに、閉店がいつもよりかなり早かったことだけが彼らの救いだった。これでいつものように午後十時ごろまでこのテンションを維持しろと言われたら、恐らく(ある種の)死者が出ていたことだろう。
 ぐったり疲れ果てた漢女メイドたちは、ここが楽しい場所であるのと同時に、容赦のない神聖生物の住まいでもあることを理解しているお客たちが、これまで、閉店時間や森の娘たちの声かけを無視して居座り、この世の地獄を見た者が何人もいる、という噂がまことしやかに囁かれているのもあって、わざわざ閉店時刻を告げるまでもなく、徐々に帰って行くのを見送っていた。
 お客たちは、「行ってらっしゃいませ、ご主人様」の決め台詞に笑い、また手を振って、こんなお茶会なら何度でも来たい、是非またやってほしい、と、漢女たちにはまったくありがたくない要望とともに帰って行った。
「……これで、終わり、か?」
 最後のお客が店を出たのが閉店三分前。
 肩をゴキゴキと鳴らしつつ銀子姐さんが呟き、
「まぁ、もう来ねーだろ。っつか、来られても困る」
「うん、頑張ったからね、香介。まぁ、俺はもう少し、香介と一緒にメイドさんをやるのも悪くないって思ってるけどね」
「……少なくともオレには悪いことだらけだけどな」
 満足げな宗主に、諦観の溜め息をついた香介がこぼし、
「とりあえず、色んな意味で疲れました。今夜はきっと、ぐっすり眠れるだろうなぁ……」
 遠い目をした柳がそう漏らし、
「帰ってからも地獄っぽい俺はこの場合どうすりゃいいんだ?」
 がっくりうなだれた剛政が愚痴り、
「やー、大漁だったな、うん。帰ったら、じいちゃんばあちゃんにも分けてやろうっと」
 お菓子にまみれた太助が満足げに言い、未だ語尾が『にゃん』のままの貧乏籤カルテットが無言のまま早く解毒薬をくれ、と目で語った辺りで、
「すまん、ちょっと待ってくれ!」
 店内に駆け込んできたのは、平賀源内だった。
「姫さんに特別仕様の新作タルトをもらってくるように言われ――……」
 言いかけた源内の目が、まん丸に見開かれる。
 ヤケクソ気味の貧乏籤カルテットが彼の前に整列し、
「「「「『楽園』へようこそ、にゃん★」」」」
 と、招き猫のポーズを取ると、源内は盛大にむせた。
「いや、その、うん、何だ。守備範囲内とか範囲外とか、そういうのは置いといて、これだけは言わせてくれ」
 リーリウムが、女王レーギーナのマブダチ珊瑚姫のためにと持って来たタルト1ホールを受け取りつつ、
「……明日には、ちゃんと帰って来いよ……?」
 過去に自分が受けた所業、やってしまったことからは目を逸らし、それだけ言って、源内がそそくさと帰って行くのを、漢女メイド十人、横一列に並んで見送る。
 好きで踏み込んだ領域じゃねぇ、と誰もが突っ込みたかったが、正直、そんな気力も失せていた。
 最後の最後にこれか、と、ぐったりしながら剛政がぼやく。
「……今度こんなことが万が一あるようなら、絶対に源内子ちゃんを巻き込んでやるにゃん」
 真顔で瑠意がこぼすが、やはり語尾は猫だった。
 しまらねぇ。

 そして、柱時計が、午後六時を告げる。

 それを確認して、全員が、深々と溜め息をついた。
「皆さん、お疲れ様でした」
 にこやかな笑顔とともに、
「さあ、では、わたしたちだけのお茶会を始めましょう」
 森の娘たちと、女王レーギーナとが、茶器や丸ごとのタルトとともに姿を現す。

 ――ふわり、と、甘い香りが漂った。



 ★10.閉店後:「憎みましょう、求められるままに」女王はそう、笑った。

 この特別の日のために用意された新作タルトは、滑らかなクレーム・パティシエールの上に、特別な方法で栽培された、季節はずれなのに蕩けるように甘い大粒の苺をこれでもかというほどに並べ、その上から夢のような口当たりのよさを誇る、甘さを控えた生クリームをてんこ盛りにした、シンプルだが素材のよさがそれぞれに味わえるものだった。
 飲み物は、好みによって挽きたてのコーヒーであったり、薫り高い紅茶であったりしたが、色々と疲れたほとんどの面子が選んだのは、疲労回復に役立つという、マテとラヴェンダーのブレンド・ハーブティーだった。
 そのほかにも、真禮がこしらえてくれたサンドウィッチやカナッペや野菜スティック、一口サイズのチキンフリットなどがテーブルを彩り、ほぼ飲まず食わずで働いた面々は、それらを無言で貪った。
 健啖家で甘味好きでもある瑠意など、大きなタルトを三切れもお代わりしたほどだ。
 皆、まだメイド衣装のままだったが、正直、このメンバーならもういいや、だって皆メイドだし、的な空気が流れていたことも事実だった。どこを向いてもメイドなのに、自分だけ恥ずかしがっても仕方ない、という諦観である。
 そうして腹が満たされ、八時間に渡る地獄からようやく開放されるのだという安堵感から、ようやくリラックスできた漢女たちが他愛ない会話を始めたころ、ドジっ娘メイドとして人々の萌えを刺激しまくったクララことクラスメイトPが、
「あの、レーギーナさん」
 フォークを手にしたままおずおずと女王を呼んだ。
「どうかなさったの、クララさん?」
 銀二のためにお茶のお代わりを注いでいたレーギーナが振り向くと、クラスメイトPは、言うべきか言わざるべきかを逡巡していたが、ややあって、意を決したように口を開いた。
「あの、無粋なことだって判っていて、お訊きします」
「ええ、どうなさったの、そんな急に改まって」
 今ここで尋ねるべきことなのか、クラスメイトPにはよく判らない。
 判らないが、知りたいと思った。
「この夢が終わったらどうしますか」
 その問いに、誰もがハッとした表情でふたりを見遣る。
 女王はただ静かに微笑み、クラスメイトPの次の言葉を待った。
「ぼ、僕にそんな、偉そうなことが言えるわけじゃありませんけど、レーギーナさんも、森の娘さんたちも、今とっても幸せなんだって、よく判ります。判るからこそ、映画に戻ったら、この魔法が消えたら、またひどい目に遭ったり、再び人を憎むようになる可能性があったりするんだって思うと、その、」
 ――泣きたくなる。
 それは、言葉にはならなかったが、女王には伝わったようだった。
 女王はそうね、とつぶやき、白い繊手を頤(おとがい)に当て、
「憎みましょう、求められるままに。そのときが来たのなら」
 そう、晴れやかに笑った。
「れ、」
 誰が名を呼びかけたのか、クラスメイトPには判らなかったけれど、誰もが彼女の言葉に胸を衝かれただろうことは伝わった。
「映画の……故郷の中で、わたくしたちの存在がそのためにあるというのなら、わたくしはそれをまっとうしましょう。嘆き、哀しみ、憤って、何もかもを憎み、牙を剥きましょう」
 女王の言葉に、犠牲者という名の参加者たちは息を詰めたが、映画に戻れば悲惨な運命ばかりが待つ娘たちは、ただ、静かに微笑を交し合っただけだった。単なる諦観ではなく、それを『あるべきもの』として受け入れる、長く長く生きてきたものだけが持つ深い胸の内、たかだか百年の時間しか生きない人の子には理解し難いそれが、彼女らの本質なのだろう。
「だけど、レーギーナさん。僕は、そんなあなたを見たくないんです。身の程知らずだって判ってます、だけど」
 クラスメイトPは、先だってのお茶会で一緒に働いて以来、この、腹黒で老獪で人でなしな、そのくせ様々に人を惹きつける雰囲気を持った女王とその娘たちのことがとてもとても好きになってしまった。
 だから、いずれ訪れる別れが避け得ないと知りつつも、その決して遠くはない未来を哀しむ。
「ありがとう、クラスメイトPさん。きっと皆さんも、同じように思ってくださっているのね。ありがとう」
 返った言葉は心からの感謝。
 女王は、娘たちは、微笑んでいた。
「だからこそ、今を幸せにと、思うのよ。いずれは消えるものならば、せめて、この街の皆さんの記憶には、幸せなわたくしたちが残るようにと」
 映画の結末は変えられない。
 彼女らはすでに、自分たちの行く末を知っている。
 それでも、彼女らが揺らがないのは、今という現実が、真実の意味での幸いを余すところなく体現しているからなのだろう。
「わたくしたちは幸せよ、あなたのように、心の底から案じてくださるよき隣人に恵まれたのだもの」
「……はい」
 彼女らにとってそれは無上の救いなのだと理解して、クラスメイトPは言葉少なに頷く。
 ――無理に口を開けば、本気で泣き出してしまいそうだった。
「我々ムービースターはいずれ帰って行くのが運命だからな。だが、レーギーナ君が言うように、だからこそ今のこの時間を大事にしたいと思う」
 この街で出会ってきた様々な隣人たちを思い起こしながら銀二が言い、ムービースターもムービーファンも関係なく、皆がそれに頷く。
 どんなに傍迷惑な方法であれ、今の彼女らが幸いで、満ち足りていて、己が行く末を哀しんではいないこと、それを誰もが理解して、仕方ないなぁと苦笑する。
「確かに、すごい試練の一日だったけど」
 四切れ目のタルトを前に、瑠意が微苦笑する。
「――……うん、悪くは、なかった」
 周囲からこぼれるのは同意の微苦笑だ。
 溜め息と諦観を含む万感の思いのこもった、許容の微苦笑。
「そう、なら、またお誘いするわね、こんなお茶会に」
 悪戯っぽい女王の言葉に、勘弁、と誰かが呻きはしたが、それとて完全な拒絶に彩られてはいなかった。

 ――結局彼らは思い知るのだ。
 カフェ『楽園』でのこの一日を、問題なく『思い出』として許容しつつある自分がいることに。
 そして、女王と森の娘たちの心からの笑顔に、仕方ない、と苦笑して、次もまた巻き込まれてやってもいい、と、ついつい絆(ほだ)されてしまう自分がいることに。

 そうして、少ししみじみと、ゆっくりと、特別な時間は流れてゆく。
 ――それもまた、銀幕市での、幸せな一日であることに違いはないのだった。

クリエイターコメント今晩は、シナリオのお届けに上がりました。

何というか、今回もかなりのカオス空間に仕上がった気がします。誰が一番大変だったかは……各人の判断にお任せしようかと。

人数の関係上、すべてを採用することは出来ませんでしたが、それぞれに素敵なプレイングのお陰で、とっても美々しいお話に仕上がったと思います。ノリノリな皆さんに心からの感謝を。

そして最後、女王に優しい疑問を投げかけてくださった、彼女らの幸せを願ってくださった皆さんにも感謝を。

また、きっと、こんな賑やかなお茶会を開催するかと思いますので、そのときはどうぞ皆さん、奮ってご参加くださいませ。

それでは、また、次なるシナリオでお会いしましょう。
公開日時2007-10-27(土) 00:10
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